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平成20年12月号
上石隆明 「幸福論」読んでポッカリ空いた午後渇いた心にバーボン染みて
円満な家族を映すメロドラマ熟さぬ林檎ちゃぶ台にあり
背を向けて寝ている君の体温を感じておりぬ幸せとして
秋空にスッカラカンに叫ぶ声駅前広場に選挙始まる
母が持つ不安の灯火消すために叔父に頼みしあまたの電話
ポキポキと雨傘畳む休日の晴れぬ心は晩夏のなごり
斉藤芳生 久々に見れば不可思議にっぽんのランドセルはどうして赤いのか
ふるさとの春日神社の大杉が倒れそうなり だあれもいない
行く川を追いかけたくて真っ白に柳絮を飛ばしていたり柳は
小魚を跳ねさせており夕暮れの川は流れをすこしゆるめて
銀色の釣り糸を垂れて寡黙なり川と会話を続けるために
アブダビより持ち帰りし砂の壜ことりと光らせて家を出る
凪ぐ海の街よりいつかこの川に降る雨のように我も帰らん
オアシス歌会
水野碧祥
歌会の後に開くはミニ歌会新宿の夜はわれを誘ふ
脚延ばしメニュー見ているわれなりて課題は「牙」と決まりつつある
久々に笑ひの多い集ひなり「オアシス歌会」とわれは名づける
全員が詠んだ詠草清書され互選の顔は真顔なりけり
われの身は心も腹も満たされて二十一時に中座するなり
黄泉平坂
高橋俊彦
雨止みて明るむ松の太幹にセンセンセンセン油蝉啼く
死の意識かれらも持つや法師蝉一途に啼くもアカシヤの枝に
盆明けの森にみんみん合唱す次いで日暮れはカナカナ哀歌
稲の穂はぞつくり垂れて黄金田に間なくなるらむ八月の尽
姿よき乙女がそばに座ししより支離滅裂になれる書の筋
コッペパン二つを食ひて夕餉とし男ひとりが無言を通す
教会で神にもつとも近きひとヒロさんの臀部いちばん大き
鴇 悦子 朝毎に会議思わせ鳴く雀 東雲の空にパッと
雀にもリーダーがいるか鳴き合ってポプラの木より群れて飛び立つ
ころころとオオスカシバの幼虫は梔子の色になって潜める
剪定した山桃は実をつけて放任は駄目と我に教える
猫二匹機嫌察して離れてこちらを見ている秋の陽だまり