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平成21年02月号 | |
上石隆明 |
読み終えて呟く言葉「凡庸さ」日曜の午後の村上春樹 黄昏るる秋の波間に明滅す光のごときサーファーみたり 手垢が付き過ぎし言葉あまたあり歌集一冊そっと閉じたる 濡れた手より逃れるように落ちし夢無傷なままの自分が嫌い 耳の奥時雨れる音が占領し嫌いな冬がまた始まりぬ 嫌いだと処構わず叫びたし金木犀に負けぬためにも 恋ひとつ終えたる息子が欲しがりて携帯電話はひかり輝く 陽を受けてソファーに眠る一瞬が至福の時と妻が呟く |
斉藤芳生 |
まだ君にたどりつかない 歩くたびに足にまとわりつく砂の粒 積み上げて積み上げられし豊かさの上に雨降る砂混じりつつ 粉のように細かき砂の紛れ込む台所何度拭いてもひとり 眠りいる街を起こさぬように降る雨と会話す右手を伸べて 君の見ている雪と私の触れている砂と 回線越しに語らう 「もし神がお望みならば」交差するだろう私と君の明日も |
第九交響曲等 水野碧祥 |
角田市で初めて歌ふ「第九」なりバリトンの声ホールにひびく 笑み多い「第九」仲間の励ましに声は出るなり腹式呼吸 ひさかたに歌ひ終へたる感激でブラボーの声浴びるわれなり 「ドレミの歌」歌ひし子は 刺とそろひスカーフ首に巻きつけ 祖国捨つる大佐の無念に思ひ馳せ「エーデルワイス」歌ふわれなり |
天狗の団扇 高橋俊彦 |
鈴掛の木下に昨夜集ひけむ天狗の団扇風に吹かれる 寒風の吹き募りくる霜月をぎんなんの葉に残る空蝉 光陰は矢のごとかりと昔びといひける思ひ見送る夕日 泡立草も秋くさなれば愛しまむ波濤を越えて来しものぞこれ 延延と続く説教に眠気差しわれは唱ふなり般若心経 阿弥陀仏の左に座しけむ母にして位牌は灯を受け黄金に光る |