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平成21年03月号
上石隆明 夕暮れは指の先より染まり来て闇が一人で囁き始む
今し方パソコンクラシュいち日の仕事が沈む夜となりたり
眠れない身体をゆっくり休めたき頭の扉をいくつも閉めて
経験が実績でありし日本かな資本主義を問いたし今は
目が合えば批判ばかりで責めてくるニキビ面にて息子は今日も
自販機に声をかけらるる老人の笑顔を見たり限界集落
斉藤芳生 逃げてきた人とよく逢う「バグダード」「イシラマバード」「ガザ」犠牲祭
達観の君を思えり私が転ぶとおりに砂漠はへこむ
まっすぐに歩けなくともいいんだよ虫が歩めば虫の足跡
放し飼いの駱駝の声は汚くて汚くてしかし鳴き続けおり
砂の舞わない日の夕暮れよあかあかと寺院をつつみ祈りをつつむ
正月二日
水野碧祥
正月二日あかときにわれ皇居へとバスで向かひぬ心は弾む
阿武隈の山から昇る初日の出拍手叩くわれのありける
ラジオで聞く箱根駅伝気にかかかるボリュームあげて母校を思ふ
わが母校「十五位なり」伝へ来る富士の高嶺は晴れてゐるらし
新嘉坡(シンガポール)の夫婦とわれは語らひぬ日の丸振らぬ彼らなりけり
冬の花
高橋俊彦
次つぎに降るもみぢかな下を行く人の背中に肩に心に
裸木となりて静もるいてふの樹きのふの鵯が番ひて来をり
白鷺の落し行きけむ卵かも白山茶花につぼみ三つ四つ
肩が凝り頭が凝りていううつな昼過ぎに読む歌集「憂春」
「夏羽」といふ歌集ありややまたおもしろく色香溢れる
青山はわが行く手にもあると思ひ早く逝きたる友に功薫く
鴇 悦子 喜寿までを働きぃ母病みいても息子の未婚案じ夢に見る
オリオンと北斗仰ぎて速歩する山際明るみ今日晴れるらし
星動くごと雲動く街未明、夜通し光る自販機あまた
池の上、水抜きおれば点々と白きものあり鷺が餌を喰む