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平成21年05月号
上石隆明 嫌うものまたひとつ出現す五十の坂を迎えるのは嫌
あんなにも泡だっていた哀しみが氷砂糖を舐めてさよなら
息子の自由奪いたるは吾ならん月曜の朝のおくびみたいに
開けっぴろげになっていたいのこの冬はだって雪がとっても少ない
水槽に浸した両の掌なめ回す僕の心を透かすよ金魚
耐え忍ぶ姿になっていませんか父さんずっと冬眠してます
斉藤芳生 帆船が駆けてゆくのにちょうどいい凪なれば皆風上を見る
日本人の私に会ってはいけないとその母怒りその娘泣く
この海を出てはいけない、髪を覆う薄衣が月の光にとける
目の粗き砂のようなる私かまたひとを傷つけてしまった
真珠のように育てられき乙女なりくちびるにやわらかき「さようなら」
春の予感
水野碧祥
春さきにそろそろ浮かぶ雪うさぎ雪の多きに肥えてゐるらし
桃の花息吹伝へるひな祭り幼の姉を思ひおこせり
南高梅(ナンコウウメ)の甘きが口に広がりて種をころころ舌に遊ばす
中也のこと生き生き話す万智さんは母と異なる眼してゐる
あだたらの空は春先冷え込みて智恵子の詩集思ひみるなり
資本主義の迷走
高橋俊彦
迷走せる資本主義とやそに換はる主義などありやと書をば我が繰る
「大耋の願い」は一夜で読み終へぬ難しよ仏教哲学とふは
次の世は女に生れむ紅を引きまた髪を撫で化くるは善けむ
血圧の薬ものまずニュースすら読まず出できて散歩は快
鴇 悦子 箸持てど崩おれる骨拾い上げ父の長病み胸突く深さ
父逝きて手続き終えて一枚の小さき田貰い故郷を残す
仏前に吾娘と吾が父母の遺影置き経諳んじて読む日々迎うる
嫁がずに逝きし娘の七回忌、嫁ぎし娘と雛祭前
この町の工業団地に売り地あり宗教法人の建物が見ゆ