年度目次へ
平成21年目次へ
表紙へ戻る
平成21年06月号
上石隆明 消えかかる虹のごとくに冬去りぬ逢瀬川にも桜が咲きて
追憶の内に三日月灯りても父棲む星は遠く輝く
満ち足りぬ声が吾の耳責めるから春のキャベツをスプーンで潰す
妻籠もる部屋を探す夢を見し何処へ行ってもひとりの平和
柔らかいパンにバターを厚く塗る剥ぎ取られたる嘘もいっしょに
自転車の籠に夢乗せ幼子とあんなところに青空もある
斉藤芳生 アラビアの母親たちに似て丈夫陽を撥ね返す白き水甕
早天にに砂まみれなる私の矜持を保つために飲む水
鷹匠と鷹が明日の相談をしつつ過ぎたり砂の吹く街
雌の鷹はこのアラビアの鷹匠に恋をしておれば我を威嚇す
放射状に固き葉を張る椰子の木の砂を被りてしゃらしゃらと鳴る
ささやかな雨粒我は瞳を閉じてあなたの中に消えてしまおう
春の訪れ
水野碧祥
十五年経(フ)ると建物わが腰も傷んで辛し突貫工事
マンションをおほう包帯巨大にて銀幕のやうに夕陽写り来
週末は魂(タマ)を休めに美術館へワイエスの絵をまぢかに眺む
ふたたびをピアノレッスン習ひそめ右脳鍛へんと思ふわれなり
須賀川銀座
高橋俊彦
ああ!嘗て街の銀座と囃されし通りは風の中の墓原
人をらぬ通りに遠くふり返る記憶の中の須賀川銀座
細々と商ひをする友と訪ひ天下国家をしばらく論ず
夢に見し「ピエタ」にまなこ潤ませてピエトロ寺院の内方に佇つ
パテシバがその身を清めゐるさまに王ダビデさへ狂れにしものを
黄泉の坂は登り切れぬと戻り来し姉の小さき手を握り締む
少しづづ治癒にし向かひつつあるか姉はこの朝おもゆを啜る
モーセ在りダビデソロモンイエスさへ、コーランの書は不可思議の淵
鴇 悦子 納骨を子と孫でする冬空に母と一緒になれと合掌
仏前に娘と父母の遺影置き経諳んじて読む花冷えの頃
闘病の果て母のもとに父逝けば壁の崩れて闇見る思いす
佐渡山腹滑走路なき空自基地レーダーは北向きて建つ憲法のもと
春蘭と団扇鏡が岩陰に咲けば卯月の狭庭華やぐ