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平成21年07月号 | |
上石隆明 |
母親が植えてしまった芝桜逃げて行けないわたしのように 少しだけオイルを含む両の掌を透かしてみれば獣の匂いす 「大好き」と嘘をつきたる休日に零れていたり夏の椿が 決めかねる離婚話を持て余し残してしまえり桃のジェラード 青春のフラッシュバックはレコードとコーラ一気に飲み干した夜 |
斉藤芳生 |
太陽の熱極まれる砂の街じんじんと我が意識を浸す 後頭部気づけばびりびりと熱きたりあなたもナツメヤシの木もいない 「熱い」日の典型的な急患として診療を受く やけに静かに 手の甲に点滴受けている我の脳幹を跨ぎこしゆく駱駝 砂の吹く道路の視界黄色くて男が顔を覆う粗布 渋滞に焦々とせりタクシーの窓も砂嵐に汚されて レントゲン写真の肺に砂粒が映りていたり 砂嵐止む |
東京国際 3ディ・ マーチ 水野碧祥 |
小金井にウオーカー集ふスリー・ディ武蔵野歩むわれの初夏なり 桜木の新緑つづく小金井路木漏れ日われの頬を照らしつ 成蹊大ケヤキ並木に涼風の爽やか気分を感じつつある 学園広場夢に見てゐた成蹊の並木にひとり佇みてをり 多摩湖あたり川を眺めれば金色の鯉はすいすい泳ぎゆきなり |
子の婚約 高橋俊彦 |
仏壇にローソクを立て父母に子の婚約を報告すなり 関西の言葉を話す友もゐて過ぎし時間の永きを思ふ 電車にて初めて席を譲られぬ若く見せむ手を尽くししに 東京ゆ帰りてしばし寝込みたり齢には勝てぬ我のししむら 百歳の息でふくらむ風船は一突き天井までも上がれる 轟音を立ててトラック行くときに深紅の椿ひとつ落ちたり |
鴇 悦子 |
潅仏会厄落としつつ遍路して高野の御逮夜燈籠の道 次々と湧く渦潮の理を知りても飽かず友と声上ぐ 遍路終え夫の病を聞けば消ゆ心の張りと春空の色 七回忌終えし娘の墓前にと高野山にて高野慎求む 天空をヒマラヤシダの若葉突く道を歩みて心慎める |