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平成21年08月号
上石隆明 私が僕であった事を識る午前零時の妻のつぶやき
ゆっくりとあがってしまうエレベーターくれない色の心を持って
分度器が机の隅を占領しおそらくあれは僕のかなしみ
明日のこと誰にも分からず自由です愛した君に最敬礼する
タバコ・酒・メガネ・マフラー・野球帽みんな僕の形見にならぬ
斉藤芳生 アブダビ半島とどう向き会うかしらたまのサプリメントを呑みくだしつつ
偏平な後頭部をもつ日本人我 反省の反省。をする
踊り子の揺らすおへそを照らしつつ夜の砂漠に増えゆく灯は
ニッポンに落ち込んだ日は砂を洗いて「夏籠り」せん
ニッポンに働く君よ雨を映すデスクトップは美しからん
眠る君に手の届かない私など砂漠に埋もれてしまえ、と思う
満月の海に抱きしめられに行く 君の眠りに間に合うように
バリのフランス人
水野碧祥
ケチャダンス男の魂に眼を凝らし記憶してゐる写真機あらず
バロンダンス劇見る貴女に笑顔あり「写真撮って」と英語で話す
貴女のため住所書かむと思ひしが添乗員はわれを呼び止む
添乗員はタイム・アップと伝へ来てブロンドの貴女忘れ得ぬなり
プールにてトロピカル・ジュース啜(スス)るなり遺跡に行かぬ吾の楽しみ
なべてぼろぼろ
高橋俊彦
コーヒーの苦みかみしめ歌ひとつ詠まむとすれどなべてぼろぼろ
目の前をよぎるはケサランパサランか森の緑は火のごと燃えて
店員の素足美しきに見蕩れつつアイスコーヒーちびちび啜る
くれなゐのうばらに止まる蝶ひとつその強き香に酔ふか動かず
ツーリングする善男善女その二台青葉の中に前後して消ゆ
初なつの風吹き荒れて散策の老いは帽子をかがみつつ追ふ
鴇 悦子 善通寺、最御崎寺に結願寺、拙き経に思いを込めて
蓬摘み夕べ食後に飲んでみて和製ハーブと夫は名づけし
朝の餌、五時まで待って戸を開けて夫に頼む猫の腹時計