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平成21年10月号 | |
上石隆明 |
自らの夢を全て食らうごと金魚一匹死んでしまえり 朝靄に紛れているか夢の中祖母が差し出す白きカルピス 母が飲む赤き錠剤ひとつあり独り居の夜を過ごすための 一輪の向日葵揺れてコップ酒溢れるものが止まらぬ夜は にょきにょきと狭庭に生える夏茗荷眠い目擦る君に似ており 許される我が儘ひとつ言わぬまま如月の夜に父は逝きたり |
斉藤芳生 |
君と見ることはなかりき 満開の月下美人の花びらを喰う 君にもはや触れることなきてのひらよ美しき花は握りつぶせよ その蕊の香り濃きかな濃きゆえに一夜の月を浴びて萎るる やくそくはしていないよと呟いてあなたも花も消えてしまった むらぎものこころを冷やし肉厚き葉に通う水はさらに濃くなる いつか咲く花の香りを運ぶべしてのひらにかわきゆく我の恋 |
高橋俊彦 |
薄雲を透かして二十秒がほど日食を視つレグホンの眼で ケイタイを操る老いは神主が木のへら拝む姿にぞ似る 山鳴りもはた海鳴りも恐ろしや女が鳴るもこれまた怖し 防府市の老人ホームは哀しかり泥水に浮く介護のベット 寒けれど心燃えてる日の真昼アイスコーヒー喉に落とす 空に月ふたつあるとふ異次元の『1Q84』時かけて読む |
梅雨明けぬ 水野碧祥 |
ここ数年梅雨明けぬことありけるに宣言すればビールはまずい アサヒドライ本宮産とわれ聞けど冷酒を飲んで抗ひてをり 梅雨明けの宣言聞かぬ次の日は入道雲に青い空なり 山崎のリストバンドを購ひぬ右の手首を7(セブン)がおほふ |
鴇 悦子 |
沙羅の花首落とすごと散り敷けば掃きつつ案ず夫の術後 臨界を越えしストレスガス抜きで抜けば心も梅雨の晴れ間に 梅雨明けぬ阿武隈高地、蜩と油蝉との共演を聞く おさな児は児なりに人を値踏みする基準があるを聞きて憐れむ 我を通す吾れは何様 寡黙なる母は何も言わず逝きたり |