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平成21年12月号
上石隆明 夏ズボン張り付く薄さに気づいた日ぽっかり抜けた秋の大空
蒲公英の綿毛気ままに飛んでいく自分の居場所捜すためだけ
本当の事を言えばつまはじき飯事にも似て今の日本は
米粒のごとき爪をつけ生まれたる吾子の頭は鴨居に届く
吾が後をひたすらひたすらついてくる母のなにもが小さくなりぬ
吾を抱き風呂へと向かう父がいる煙草の匂いが夢の中にも
斉藤芳生 薔薇水を我大量に買い込めば夕影を買い占めたるような
ひとを恋うための湿度を保つべし湾岸は霧を湛えて眠る
たちまちに顔を覆ってしまうだろうアラブの女に勤労を説けば
教室に「おいのりのしかた」掲示され正しく祈る子が描かれおり
香りとは光るものなり薔薇水に髪を濡らして恋人を見る
薔薇の香を込めたる水を飲みほせば我が倦怠も美しからん
それぞれの言の葉をもちて人の往くアブダビは美しきモザイク
奈良
水野碧祥
あをあをと稲の葉揺るる法輪寺斑鳩の道歩みゆくなり
ほんにまあほんとに図無い盧舎那仏ミニマムわれは在家の信徒
かはら供養家内安全筆で書き衆生のわれは救われてゐる
柱くぐり潜らむしかし無理だろうこころの裡で思ひつつあり
早暁に唐招提寺訪ね来て読経聞きつつ心経唱へ
戦後邦人は
高橋俊彦
街裏の細川なれど水涸れしことなく魚の群れつつ遊ぶ
羽ねぶきてはたまた潜る鴨つぎつぎに動き移りて波紋立つ湖
穂に出でてめでたき稲田その上を白蝶ふたつ縺れつつ飛ぶ
切り捨てし足指の爪引きずりて小蟻一匹穴蔵に消ゆ
生きてくれ!姉よ死ぬなと祈りつつ大腸癌のオペ済むを待つ
鴇 悦子 吾の全て支えてくれた寡黙な母、親を捨てたとぽつんと言いき
施設にて「娘が切る」と断って好きな髪形我に言う母
癌は死と悪気なく言うな夫病めば高き青空冷たく映る
生りすぎた無花果門に並べれば勘定の合う無人販売
無花果を配れば煮方の情報が必ず戻る交わりのあり