年度目次へ 平成22年目次へ 表紙へ戻る |
|
平成22年01月号 | |
上石隆明 |
あぶら蝉戦うように鳴きし後隣町から夕闇せまる 忍びよる闇に背をむけ子供らは母が待ちたる家路を急ぐ 都会より戻りて来る人おしなべて笑うことをも忘れていたり 今ここが踏ん張りどころと息を止め締め直したり赤きネクタイ 駅前のデパートひとつ閉店し裸体のごときシャッター続く |
安保闘争 水野碧祥 |
アメリカを帝国主義と呼んでゐた七十年の安保闘争 学園の紛争知らぬ学舎に学ぶわれなり貿易英語 保守系のわが学舎を潰さんと全学連は武装してゐた 閉ざされた正門前に対峙する体育会とゲバルトたち 機動隊ゲバ棒持ちし学生と小競り合ひあるお茶の水なり |
森の小人蝉 高橋俊彦 |
樹のうえで白雪姫を呼びてゐむハイホハイホと小人蝉らは 茶房には寂しき人の集ひきて自が洞穴にその身とぢ込む 文化の日かふは賞状賞金を得るはずだつた また夢となる 『太陽の季節』で春を謳歌せき南田洋子も蒼天に消ゆ 老いてなほ恋ほしき人は在ませども躇ひて今口にチャックす シュバイツァーの像に頬擦りする我を紅毛の人見て笑ひゐき |
鴇 悦子 |
ぽっかりと時の挟間に入り込む難事よぎればゲームに逃げる 殺生石硫黄の臭い焼けし石、何を願わん地蔵の合掌 奥那須のの秘湯のプール夫と二人泳げば舞い散る紅葉幾片 悪さして急いで逃げる箱の中、治外法権主張する猫 |