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平成22年02月号 | |
上石隆明 |
ひとしずく時間の海に涙消えわかり合えない思いもありて 一瞬の気まずさもあり抱えたる薔薇を一束結婚記念日 切り口は今も鋭き線を残す避妊手術の愛犬の腹 三人の白きTシャツ干されたる向こうに見える枯れし銀杏が 行く河の汚れはいつか責め戻るペットボトルが流れて行きぬ 冬の朝空いちめんの星が見え呼ばれたような錯覚もあり 過ぎさった夏の記憶をかき乱す積乱雲は天気図には無き |
斉藤芳生 |
大いなるアラビア半島の主である砂漠を大股で歩むべし 「どこにゆくのだどこにゆくのだ」走ろうとしても砂漠は許してくれぬ 吹き終えてすべての風が眠る場所なれば砂漠に目を閉じてみる 急速に鳥の亡骸乾きゆくように私も乾いてゆくか 日輪と砂に両目を灼かれたる」老女私の手を確かめる 大量の砂に埋まってゆくこころ岩山は黒きままに語らず 夕暮れの駱駝農場目を閉じて砂になろうとする雄がいる 大抵のことは忘れていいのだと砂漠は私の足跡を消す |
水野碧祥 |
ダンスクラブ忘年会に参加するダンスの曲の流れるなかに 一時間いで湯につかり憂さ晴らす今宵踊らんソシアルダンス 踊りつつ「何かのかをり」と聞きし吾に「シャネルの5番」と君は囁く ベ平連平和求めん清水谷(シミズタニ)好んで歌うインターナショナル 赤坂見附六叉路あたり眺めみる弁慶橋は広く大きく 拉致された写真展示の都庁なり「しおかぜ通信」募金をしたり |
霜月なかば 高橋俊彦 |
晩秋は唇さむし洩れ出づるアイネクライク・ナハトムジーク 今日もまた年賀欠礼のハガキ受くいや寒きかな霜月なかば 若き日にプロポーズして諾を得しひとも老いたり他人(ヒト)妻として 日に一度茶房にコーヒー楽しむはひそめる力を呼び覚ますため 後れ髪を美しわが見つ珈琲店のやや年増なるスタッフKの 黒髪は人間の花、禿頭は稔りのしるし嘆くことなし |
還暦 鴇 悦子 |
懸命さは正とは限らず我が基軸コスモスのごと揺れる還暦 へこみては膨みにくい風船のような私を認めるか友 人参は葉をロゼッタにしておりぬ吾れも頭を伏せたきことのあり 我が生れし日を二昔忘れずに還暦に花持ち来る子あり 電飾は華やかなれどオリオンを見つけし時の心は澄めり |