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平成22年03月号
上石隆明 灯油売りとおるおみなの声流し袋小路をも跋扈しており
デパートの広きフロアで見失う夢にみたりて亡父の姿を
パンジーを撫でているのは冬の風君に届かぬ悲しみのかぜ
夕闇に灯る町の灯ひとつずつ寂しさに似た痛みもつ
新宿の午前零時に行き交いし無表情なる若者多く
傘をさす習慣は無し北国にはらはら舞いし雪は賜物
斉藤芳生 風紋をくずしつつ我寝こべばあっけらかんと空乾きおり
美しき水脈 君を知りてより「優しいひと」と我は言われき
泣いて泣いて乾ききらない恋ひとつ寡黙は砂に覆われてゆく
半身が砂に埋まっているような身体だ 君を追いかけられぬ
ぱちぱちと風に吹かれて我を打つこまかき砂のせいにして泣く
アラブ馬君をめがけて駆けてゆく砂漠を走らなければ 私も
水野碧祥
さ迷えるユダヤ人
高橋俊彦
トビ色の眼に見据ゑられ今も尚さ迷い歩く彼のユダヤ人
教会を無断欠席してわれは長々とけふ炬燵にねむる
キリストとイエスを峻別して歌ふ塚本邦雄に恋ひ渡りつつ
差し対ひ子と飲む珈琲この朝のロイヤル・コペンハーゲンの青
病室にわが父母を看病しその間に読みし『坂の上の雲』
朔太郎、中也にこころ奪はれし高校時代をひたなつかしむ
朔太郎に四百首もの歌あるを「かりん」誌上にわが知り得たり
昔日
鴇 悦子
野鳩鳴き倦みてまどろむ休日の汝を想いている真昼
喫茶店、言った言わないとコーヒーをスプーンで混ぜる悔恨の泡
こだわりてこだわりて来し歳月は君の言葉で空白となる