年度目次へ
平成22年目次へ
表紙へ戻る
平成22年04月号
上石隆明 一生を宮仕えに終えし父遺品の銀杯捨てられぬまま
湿り気を持ち始めたる吾の心傾く夜なり冬の齢は
冬の月丁度半分残されてうさぎの住み処隠しておりぬ
生き物の匂い押し込め雪が降る春を待ちわぶ陸奥の朝
パタパタと歩く音のみ通り過ぐ息子の闇は何を引きずる
月見上げ飲み干したりし芋焼酎薩摩のかおり込み上げて来し
斉藤芳生 お喋りに溶け残るほどの白砂糖を入れてアラブの女は多産
コカ・コーラの炭酸が抜けてゆくように筋肉緩びゆく産油国
消えやすきもの多ければ砂の国の我くきやかに眉を描くべし
切っ先の鋭き月にせかされるようにアラビアの太鼓をたたく
繊月の身に刺さり来る夜にあればほろほろと恋の痛みこぼるる
私など全てなかったことにして砂漠は夜に溶けようとする
ああ砂よ汚れた靴を脱げばなおこぼれくる君はもういないのに
水野碧祥 新年に伊勢神宮を訪ね来て魂のふるさと感じつつあり
憬れて焦がれて行きぬ神宮に覆われてゐる霊気清しく
内宮の御垣内(ミカキウチ)から眺め入る鰹木金に耀うてゐる
神主の御祓ひ賜う御垣内魂鎮もりぬ鎮められたり
山峡で電波とどかぬいで湯にて浮世の疲れ癒してをりぬ
茶房ドトール
高橋俊彦
独りゆく一生も佳しと思ひをり伊万里の碗に茶を満たしつつ
裏返しすればもことの我がゐむ鏡に写る醜男ひとり
蒼空の彼方に行きし父母よ長男われは貧にし喘ぐ
プロティーンは缶詰が良し独りなるわが現し身養ひて秀
しんしんと降る雪の野に眼をやれば草木国土悉皆成仏
今朝の空こコペンハーゲンブルーなりアンデルセンの眺めし空ぞ
鴇 悦子