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平成22年05月号
上石隆明 誰が打つビー玉ふたつ弾かれるいつも寂しき人に似ており
赤子(こ)は未来示しておりぬ小さき指ぐっと握りて意志を表す
重力に逆らえぬよう抱きしめる君との距離を確かめるため
過ぎて行く時間を味方につけるため鏡を見たり負けぬ自分に
わたくしの中の並木が揺れている暖ったかいんだ秋の夜風も
斉藤芳生 「引き寄せの法則」によりアブダビの路上砂嵐に襲われき
砂嵐なれば私の躁も鬱も砂に打たれて消えてゆくのみ
もしかしたら私も巨大な砂時計の中かも知れず 砂にまみるる
鼻と喉の砂塵を洗い飲み込めばビタミン剤はよく効くらしい
砂嵐ざらりざらりと我の身を削り横面を張りて去りゆく
日本には森閑という静けさのありて優しき水流るるを
父への思ひ
水野碧祥
昭和晩年父は弥生に旅立ちぬわれはさ迷ふ二十三年
父親の二十三回忌法要と金剛峯寺から便りは届く
高野山訪ね行くなり一昨年出逢ひ嬉しき弘法大師
心経を震へる指で描きつつ墨の香は部屋に漂ふ
病弱な我を気づかひ父と打つゴルフスイング懐古してゐる
父の好きな野球に我も引き込まれ投手志望の四番打者なり
子の結婚
高橋俊彦
子が嫁ぎわれは独りになりにけり窓打つ雨の音さへ親し
あれこれと子にもたせやる品品もわが慶びのうちにこそあれ
白雲に疾きありまた遅きありわが心情を分けて載せやる
二十万ばかりのホマチあるゆゑに確定申告とふ煩雑事
弟は先に逝きたり眠れるは木花咲耶姫のひざもと
鴇 悦子 眠るがに見えし母呼べど応えぬを永遠の眠りと知らず揺すれり
方言で話したくなる齢あり郷の言葉は魂を持つ
耳順来て未だ見る夢受験する支度の不備に慌てているよ
北限を越えし山桃蕾つけ雪に耐えおり殻硬くして
お決まりのコースが三つあり今朝は如月橋にて朝日を拝む