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平成22年07月号 | |
上石隆明 |
平日の観覧車は夕陽受く死を背負うごとくに止まっておりぬ もがきたる歌友も多し抱え込む家族の悩み仕事のなやみ 口開き母の指へと寄って来し金魚一匹まるまる太とる 悲しみを洗い流すは夕暮れのカフェの円卓誰かを待てり 駅前の乱るる自転車覆いいしハナミズキ揺れ花が舞い降る たかぐもる空を見上げつ母ポツリ「ひとり居の安堵あり」夏が来たりぬ |
斉藤芳生 |
チョコレートの銀紙をもて鶴を折る指先より日本人に戻る 日本の入浴剤を手に入れて浴槽に砂臭き湯を張れり 乾いた人には私がここに井戸を掘ろう、美しい水の湧いてくるまで 太陽の怒りを極まる夏至過ぎてナツメヤシの木が疲れておりぬ 月光をよろこんでいるネツメヤシ葉について砂をふるい落として 夢に手を伸べるさみどりふるさとの雨は静かによき香りして もしかしたら降ってこないか砂嵐の後に桜の花のひとひら |
奈良への想ひ 水野碧祥 |
奈良時代奈良の都に憬れて奈良大学にらい年学ぶ 高の原駅に降り立ち芝桜われを迎へて咲いてゐるなり 室生寺の石段踏まばいにしへの女人の叫び聞えくるなり 室生寺をバスで下れば棚田あり水はきらきら輝いてゐる 自転車で橘寺を訪ひてをりさはやか風がほほを伝ひぬ |
同窓会にて 高橋俊彦 |
百までも生きむと我のいひやれば友ら笑ひて手を叩きたり 夫婦にはなり得ざりしが遠き日のそのひとも来つ同窓会に 別れぎは列車の窓のハリ越しに掌を合わせたり泣き笑ひして ばか騒ぎするテレビなら観ぬ方がましよ然としてエニになるなり マニュアルを読むこともせず子に聞いて携帯電話やつと繋がる セルフィッシュなテレビ放映九回裏の二死満塁といふにプッツン |
鴇 悦子 |
娘訪わねば淋しさつのりもの言わず薬、食事を拒否せり母は 陽がのびるほど芍薬の緋き芽も装い凝らしツンと顔出す 家持の歌を刻める如月橋渡りて今朝も朝日を浴びる 日輪が出る一刻を歩み止め日出の山とう場所にて拝む 芍薬の緋き新芽は尖りいて草冠を思わせている |