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平成22年08月号 | |
上石隆明 |
こしあぶら苦みとともに春が来た届けられたる幸せがあり どんどんと忘れる癖を付けたるは管理職になりたるあの日 憂鬱とは呼ぶに少しためらいを持ちて息子は初恋終えし オルガンのペダルを踏みぬずんずんと煙草のの匂いの祖父蘇る 身のうちの大蛇を住まわせし人が行くかちんかちんの挨拶をして 焦点の合わぬ眼鏡を取り替えてひとつの恋が終わりを告げる |
斉藤芳生 |
熱風の吹く街なれどひとのいるところ雀はどこにでもいる 大量にペットボトルが棄てられてアラブ馬もはや走れぬ砂漠 砂と嵐に耐えるテントに一塊の肉切り分けて家族はありき ナツメヤシの木の葉は砂と同様に硬ければこそ砂に耐えうる 重量制限四十二キロでは足りぬ三年なりき箱を閉じつつ 祈ることはついになかりし三年を金色の砂に埋めんとする 夏至近き砂漠に棄てていくものは涙のみ 東から日が昇る |
スワンシスターズ 水野碧祥 |
愛すべき鳩山由紀夫退陣に募る恨みはみづほ・沖縄 福島市に鳩山幸訪れて握手する掌は熱く小さく 由紀夫さんの体大事と言ふ婦人レシピ増えたと語りつつあり 食事後の皿を洗ふと言ふ彼に甘えてゐると婦人は語る 購ひし著書にサインをその時に震度五弱の大地震来る |
日本の未来 高橋俊彦 |
去年よりも六千人も減りしとぞわが住む県の新生児らは 年ごとに減り続け行く児の数に日本の未来うれふ昨今 そよそよと吹く初夏の風に乗り生まれしばかりかこの紋黄蝶 それはもう寂しいなんていふもんじやないよ独りの日々の明け暮れ この頃は書が読めぬなり積み置ける『1Q84』巻3の鬱 国道をかさみて安売り競争のスーパーにわれ右往左往す |
鴇 悦子 |
あめんぼがくぐる早苗は低温に分けつできず水面の広し 卯の花はなくて二輪草群れ咲ける白河の関樹下の明るし 若葉萌ゆポプラ並木は朝陽うけすくっと立てる影も並木も 芍薬の蕾は密を出しており群がる蟻とともに触れみる 風を見に外に出でし児午後の空見上げて「あれ月だ」と声をあぐ 兄まねて三歳の子が読み書きす学ぶ喜び満面に見せ |