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平成22年10月号
上石隆明 「老残」という言葉を残して駅前の老舗そば屋が閉店したる
ゆったりと玉子も眠る冷蔵庫洞窟なのはわたしの心
どん底の心を救いて慰める今では無くて昔の拓郎
具志堅がクイズ間違えのけぞればヒヨコのような優しき目なり
「痩せたよ」と母の呟き連呼され食べるも闘い老いというもの
母送る整形外科の窓外にいじらしくあり忘却の傘
斉藤芳生 束太き風渡りゆく水田のひかりあつめて白き鍵あり
いやだけれども眉間にしわの寄る癖が同じ私と 桃を描く母
すこやかに枝は伸びたり父の持つ植木鋏に刃も夏めきて
重力のちがう星かと思うまで重し眉毛とくちの筋肉
農耕馬の睫毛長くてくろぐろと見つめていたり山毛欅林の雨
骨盤の歪み正す体操の流行りて固き列島の鬱
商店の取り壊されしあとにして一角にあおく咲ける露草
水野碧祥 爆心地ドーム近くの石榴の実割れてゐるのを眺めみつなり
仏蘭西の友と見てゐる記念館外国人と疎遠になりぬ
靖国の社訪ねし終戦日礼装の人襟をただせり
戦友が数多死んだと言ふ父も今は亡くなり友と遊べり
酒飲んで軍歌を歌ふ父ありて小唄に遊ぶときは華やぐ
ジェームス師
高橋俊彦
この夜もベットに襲ひくるわが老骨をさいなむ孤独
古稀過ぎてわが肉叢に異常なきことを謝すなり無なる何かに
ジェームス師去りてしよりはわが心乱れて遂に神を離れつ
享年は母が基準ぞそれよりも若く逝きたる人を哀れむ
一期一会の客こそ良けれ常連はうるさし午後の茶房に思ふ
鴇 悦子 佐渡の墓地、共同なれば異宗派も三々五々に迎え火に行く
隣国と太宰が違えし山脈を船より見れば佐渡人になる
郷の道「スピード違反はスルメえ」と諭す看板宣伝兼ねて
便利さと引き換えに受くる体温を超える暑さに耐ええぬ人、人
木苺はブッシュとなりて赤き実を目印にして我が手を誘う