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平成22年11月号
上石隆明 感情に逆らわぬように抱え込む琴線もあり夕立が過ぐ
朝露に触れえぬようにそと歩く君との距離を確かめぬまま
言の葉が揺らいでいるのは今日の吾窓より吹き込む風が強くて
サンドウィッチに幸せ挟んでおきました君への想いを壊さぬ為に
深き森抱え込むよに君帰る助けられない落ち葉のわたし
真夏日に何も届かぬ赤ポスト乾きし心を示しておりぬ
斉藤芳生 アブダビのブーゲンビリアの花殻が色紅きまま吹かるる 夢に
どくだみの花しろじろと墓地裏に群れて湿気をやりすごしいる
煮ても焼いても喰えぬ日本か田の泥にアメリカザリガニ跳ねて隠るる
ふるさとの緑陰に深く眠るのみもはや砂漠にあなたも遠く
さみどりの花ひらきゆくアラビアの合歓の大樹を見上げいし君
見上げいる君に降りたし私は狂ったような豪雨となりて
もろ腕に抱きしめんかな熱き砂撒きあげて嵐のようなあなたを
奈良
水野碧祥
青丹よし奈良の都のさくら花入学式で見んとぞ思ふ
文化財の建築物に魅されつつ奈良大学に来春学ぶ
薬師寺の東塔に映ゆ夕焼けを眺めみるなり閉門まぢか
真言の三十遍を唱ふれば薬師如来に救はれてゐる
本尊に病癒えよと願掛けて合掌する手に汗は滲みぬ
夢を喰う獏
高橋俊彦
梅雨晴れの午後のひととき眠りたり汗にまみれて獏が夢喰う
雷神は午後目覚むるか容赦なき豪雨とともに今街のそら
久々にテレビに出たる山形弁のダニエル・カールも老い給ひける
老い父のひとつ覚えの「きやり節」我も唱和し共に泪す
介護度が3になりたる老い母がしきりに唄う「北国の春」
雑文が新聞に載りいささかは愉快なきもち朝顔の花
鴇 悦子 親になるは産むより難く園舎にて育児放棄する動物に似る
真夏日の続く長月、垂り穂田に水張りてある天候異常
沙羅は葉を縮らせ青き実を落とし真夏日の処暑やり過ごしたり
草々は身のほど知りぬ猛暑には丈短くし実を結びおり
すし詰めの電車降りれば釈迦堂のハートの花火が迎える夕べ