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平成23年09月号
上石隆明 愚総理なりしがみつく他術もなく先が見えない民を捨て去る
犬を連れ砂が巻きたる畔道に目に見えぬ物への恐怖は絶えぬ
何洗うために降りたる長雨か始終マスクの子供らを哀しむ
身の内にさかたつものを封じこめ怒りを持つも眠るほかなし
怒ることを忘れてしまいし震災に何でも無い事に涙溢るる
われもまた樹々に同化したき独りなる愚行を暴き叫べぬ今は
斉藤芳生 私は蜘蛛ではないが虹色の糸を吹かせてみたき小春日
蜘蛛の子は真白にひかる糸を吹き私の知らぬ気流にて飛ぶ
細き糸いよいよ白くたなびきて蜘蛛の子もひとのことばも軽し
たどりつくのはどんな日本かしらないが蜘蛛の子も我も飛ばねばならぬ
新しき土地を懼れぬもの同士蜘蛛の子と我に陽はあたたかし
ある秋の晴天に蜘蛛の子も我も美しく光る糸を残すべし
河野裕子の姪
水野洋一
始発駅宝ヶ池から乗り合はせし女性喪服の似合ふ二十六歳
「偲ぶ会のお帰りどすか」とわれに問ふことばやさしく耳に響けり
吾の名刺見たるとたんに父の名と漢字も同じと君は言ひたり
さくらんぼ描かれし名刺みる我に石部に住むと君は語りぬ
石部にはむかし伯母ちやん住んでゐたと言ひたり河野裕子のことなり
放射線(2)
高橋俊彦
福島は日本の癌か打つ手なし右往左往の議員や学者
目に見えぬ敵ゆゑまこと恐ろしく朝ごとに見るシーベルト表
重機にて校庭の土削りてもまたその後に降る放射線
燕らは放射線など知らぬべし今年も軒に巣を造りそむ
放射線漂ふ街は死に絶えぬ今宵も舗道の石けりて行く
この年は田植ゑ諦め向日葵の種を蒔かむと農ら励めり
鴇 悦子 ブザー持ち線量計持ち登下校道草くえぬフクシマの児ら
後手後手に線量知らされ日記操ればその日に限り外に出ており
扇風機午後は売り切れ予約待ちフクシマの夏やりきれぬ夏
避難せず牛飼う人よドンデン山に群れて草食む牛もおりしを
合歓の淡き花咲く海も碧き佐渡 賽の河原に石積みをせん