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平成23年02月号 | |
上石隆明 |
野のいのち畔道も荒れ小川なくいつか必ず仕返しがある 一グラムほどに心は軽るければ松ぼっくりを拾う可笑しさ 鈍色の髪切り虫が出で来れば部屋の隅々冬を告げおり 沈み際夕陽がとても大きくて吾はかなしみ引き摺っている 秋霖にわたしの心は埋められてオセロのごとく人に負けたり |
イザベラ・バード 『日本奥地紀行』 斉藤芳生 |
いざべら、というひとが来る坂道を私は陰れて見ていた子ども いざべら、は母が支援をする間履きものをきちんと脱いで座った いざべら、の裏山の栗の渋皮を執拗に取り除く指先 いざべら、は夜中に何かかいていた絵ではない、左側から右へ いざべら、の馬が嘶く山茶花の白であったよ馬の背に散る いざばら、の痛む背中をさすっては見ていたほつれ毛の赤茶色 |
水野洋一 |
一首から八首掲載かりん誌に6B鉛筆やさしく滑る 成績証・卒業証書を準備する奈良大学の入学まぢか 基礎年金貰つて過ごす春来たる倹約願ふ日々なり 障害者世話人として五年経ぬ何も出来ぬと思ふことある 熊本の世話人会に参加しぬナショナル・ミニマムいかにしあらん 大宰府の天満宮に立ち寄りぬ大学受験をわれはするなり |
となりの地主 高橋俊彦 |
尖閣は俺の土地だといひ張れるとなりの地主億万長者 罪人は賞はいらぬと駄々をこね顰蹙を買ふとなりの地主 モンゴルに半ば占領されてゐる相撲に興味を持てといふのか あれも駄目これも駄目だといひ張りて遂になりしかおひとりさまに ぎんなんの黄葉あらかた散り果てて晩秋のそら深々と見ゆ 遠つ祖の祝賀のごとく新築の家にいちやうも黄葉ふるなり |
鴇 悦子 |
曲線は大き叫びか太き線捩れてゴッホの顔をかこめる 自画像のゴッホは笑わず眼を合わさず実つめる先を追いている我 陸奥に友来る季は紅葉は予想つかずに初雪を聞く 腐葉土に銀杏食まんと大小の蚯蚓ひしめく土の温もり 白菜に黄帳宿りて越冬すか葉を剥ぎおれば部屋に舞い立つ |