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平成23年04月号 | |
上石隆明 |
寂しさと旅の楽しさ残したり東京駅のエレベーターは 前を行く車のしぶき作る虹重き冬の日忘れさせたり 無力なる女押し込め厨房はむかし男は入れぬものを 遠き日の悲しき場面連想しエジプト展の半券しまう うっすらと洗面鏡に映りたるまだら髭もつ男は誰ぞ 貧相なるわれの心を晒すよで気恥ずかしきもの透明こうもり |
斉藤芳生 |
ワゴン車ごと爆破されて少年よ睫毛など焦げてしまっただろう わらいながら嗤いながらなぜひとを撃つバグダード「平安の都」に 漏れ止まぬ兵士の嗤いに震えつつ星条旗よ永遠なれ、なれ チグリス川を遠くに臨んで平成生まれのアメリカ兵がいるということ バグダードの死者はメッカに頭を向けて葬られ雨を享くることなし 願わくはこの雪を降らしめ給え金臭きバグダードの夜に |
水野洋一 |
蝉しぐれ激しく聞こゆ去年の夏ヘルニア症と診断くだる ベートーベン第九歌へぬ去年の冬小林研一郎第九を聴いてゐたりし 歌ふこと体に良いといふ医者のバリトンの声大きく聞こゆ 梅乃木の数珠購ひぬ一連を手に触れてゐる照りて輝く 室生寺の石楠花見つつ階段に腰の痛みは少しやはらぐ |
一献の酒 高橋俊彦 |
ベツレヘムにイエス生ましを祝ひつつ一献の酒独りし飲めり 盲目の詩人にあればこそ佳かれエロシェンコ氏の思郷の涙 日本に来たりてその名挙げにける露人のひとりスタルヒン彼は 中国はあまり好かねど彼の国の知恵なる漢方薬に脱帽 我が国も大国なれど大国の振りすな世界はなほ摩訶不思議 いつしらに雪は止みたれ一月の空は不機嫌な情婦のやうだ |
鴇 悦子 |