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平成23年05月号 | |
上石隆明 |
両耳に冷たき風をあびながら土手に見つけし蕗の薹ひとつ 敷石を踏みつつ思う母の歳われを満たさぬ介護というもの 「思いやり」疎まれ難きが多かりと眠られずおり東京帰化人 結露する窓もつ家は普通なり子供が外で元気に遊ぶ ライト付けて見るものあらず吹雪く中北国の春まだ近づかぬ |
斉藤芳生 |
あたたかき雨したがえて我もゆくさみどりの地にあふるる春を 白鳥がうつくしく首を伸ばすごと草食竜も春を想いしか CTスキャンの画像かくも縮みたる祖母の脳よ 雪よりも白し 福寿草の花びら鉢にひらきつつぱりぱりと割る列島の鬱 玉のようなあかちゃんを我未だ産まず桃缶のぬるきシロップをのむ 大粒のあたたかき雨に愛されて裏山は美しき水沼をまもる 現世はあるいはトロンプ・ルイユにて今宵凝視を止まぬ満月 |
水野洋一 |
やわらかな鉛筆ならば陰影がうまく伸びると君は語りぬ 境内の銀杏黄葉は艶やかに天神さまの大きな鳥居 走ること得意なわれは三等にみどりのリボンは胸に飾りぬ カバン置き外で遊ぶは五年生夕餉ちかくに母の声する サーカスに売られてしまふ夕闇に早く帰れと母はいふなり 目をつむりひげをぴくぴく動かしぬ白い毛なみの子猫ありける |
老いのまにまに 高橋俊彦 |
ワープロのインクどこにも売つてゐず強張る手にて歌稿書きゆく お互ひに話しかけぬが礼儀なり午後なり午後の茶房に書をが操りつつ 目薬を差すを忘れてゐる我は本当は眼が悪くはなきか 歌などは金になるかと病床の母のたまひき我に逢ふたび 六千の歩数重ねて町内をめぐる散策すでに五とせ |
鴇 悦子 |
聡き目の鶫は青菜食み尽くし嘴形の葉の縁廻り 佐渡の子が甲子園児になると言う興奮メールが弟より届く 子のように寝しなに我を舐める猫、吾娘の拾いし形見は温し 声も出ず感覚湧かぬ時を知る子が職辞めしという電話受け 中学の英数本を解き明かす喜びを知る六十路の日々に |