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平成23年07月号
上石隆明 春彼岸今年は襲う地震のためひと月遅れて父の墓前へ
すべからく原発神話消え去りて梅さくら散るも笑顔少なく
風さわぎ放射の塵舞い落ちて歓声消えて校庭広し
欄干が欠けし石橋向こうにも桜を散らす春のそよ風
橋脚に絡まりている芥多く支えるものの苦悩は続く
春小道流砂の響き穏やかに運ぶ恐怖は目に見えぬもの
斉藤芳生 放射線届かぬ街に携帯電話(ケイタイ)をおし続け太りゆく親指は
「大丈夫」とう言葉の定義誰もみなわからぬままに問う、我もまた
放射性物質を吸収するという向日葵の容赦なき黄を想え
吉兆であるはずはなく東京のコンクリートに這う赤き虫
アオスジアゲハが轢かれていたり被災地に至る一丁目の交差点
東北地方
太平洋沖地震①
水野洋一
みちのくを脱出したい諸人はジプシーとなり歌をうたへよ
東京に憧れぬまま生きし今原爆雲が浮かんで見える
東京の職業野球に情はなく踏み潰しゆく死者のたましひ
廃墟の町じつと見てゐる人々は野球見ずとも生きてゆくなり
ドラマなど見ることできぬ被災地の黙せる人にも春はくるなり
老残も時に
高橋俊彦
穴の開くほど見詰めては歌にするわれ本当は何も見てゐず
パテシバの湯浴みにこころ狂ひたる場面こそ読めかの旧約に
老齢のマークを張りて運転をすればスキルが落ちる気がする
急激な灯油値上げに嫌気さし寒き春夜を着脹れてゐる
見知らざる人と肩組み耐へにけり地震突き上ぐるスーパー広場
心の揺らぎ
鴇 悦子
鬼太鼓と佐渡の訛に身をひたし心安らぐ避難先にて
野馬追いの地より避難の児らを教うる我も避難者佐渡の宿にて
奇遇にて眼から鱗の師の批評歌変わる予感我が身を貫く
逃れてものがれてもつき来る人災は初産の吾娘苦しめており
揺らぎつつ郡山にて出産をするとう吾娘と佐渡より戻る
行くあてのなきセシウムと吾娘の胎児と老いきし我が命を比ぶ