年度目次へ
平成23年目次へ
表紙へ戻る
平成23年08月号
上石隆明 感情の移入がうすき歌並ぶひとごとみたいだ体が疼く
震災後母は老いてしまいたりまなざし澄むも泣くこと多く
空白の時間があると気づきたる未来へ残すものを亡くして
人の情こころも熱き義援金盗人行き来す被災地哀し
みどり濃き畔道に降るは放射能眼には見えねど怖ろしきもの
他の県のパトカー数台警らするこころも病みたるわれらの町を
日暮れ来てサンマの匂いに安堵する脱力感を埋めるみたいで
福島の大熊町こそかなしけれ毒吸いくれし向日葵の花
早稲田鶴巻町
斉藤芳生
花天月地 誰も見上げることはなく印刷を待つ紙の静もり
早田通りも繋がれている飼い犬の鼻先に濡れる桃の花びら
鶴巻町に製本屋あり雨水をあつめてひらく睡蓮白し
製本屋は本を製本屋の妻は睡蓮の大輪を咲かせる
インクのように青いあじさい鶴巻町の古い印刷所の裏手には
鶴巻町の路地に積まれて大量の紙が月夜に得るものがたり
太平洋沖地震 弐
水野洋一
障害者団体の総会ありぬ東京は温度差のみが際立ち見える
簡単にリストラすると東電は己切らずに部下を切るなり
大企業は偽の安全をマスコミの御用記者にと伝へゆくなり
原子炉は定年退職願へども受理されぬままそこにありたり
ひび割れた原子炉使ふ東電のむさぼる姿を悲しみてみる
放射能
高橋俊彦
十個ほどバケツを並べ雨もりの雫を受くる地震後の我が家
目に見えぬ相手と戦ふ難しさ「がんばろう福島」の言葉むなしも
県産の大きトマトを購ひぬ放射能?まあいいか値段が安い
放射能受けし野菜を買わむとす被災者われは底意地出して
何処までの数値が安全なりとふ基準はあらずこの放射能
一面に放射能降りこの年は野菜も米も作れぬ農家
不知
鴇 悦子
身ごもりし前より痩せし吾娘はただ解決のなき涙流せり
余震来ればうろうろとする眼に児らの深き傷口まざまざと見ゆ
児らの居ぬ遊戯動かぬ公園は廃墟の町のシンボルのごと
声立てず牡丹は咲きぬ純白に収束のなき事故など知らず
地震後の心の針の動かねど一輪草咲く季は来にけり
セシウムが空気に土に浸み込みて見えぬ怖さに慣れない暮らし
窓外の車の音に雨を聞く不思議に好きな調べとなりて