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平成23年10月号 | |
猪苗代湖 上石隆明 |
対岸に聳え立ちたる磐梯山まむかう母の目は潤みたる 岩肌に波は幾多も打ちつける母と吾との葛藤があり 湖面にはジェットスキーが騒げども優しき風は頬を撫でいく 今さらにかけがえのなき猪苗代湖目の前に立ち礼をすひとつ 怖いほど雲は重くたれ込めど吾の元気を母に分けねば 淋しさを慰めてくれし本棚が吐き出されおり地震の後に |
野生絶滅 斉藤芳生 |
さあ朱鷺よ産めよ殖えよと寄生虫を取り除かれし泥泥鰌蠢く 野良猫から逃げることさえできなくて真夜しずみゆく朱鷺色の羽 ああ、どうかもう、放っておいて 暴れて暴れて折れてしまった朱鷺の嘴 美しき羽と鼻づまりの声をもて抱卵を放棄する朱鷺 日本人は鬱陶しくて 抱卵も給餌も忘れてしまった朱鷺は 放鳥朱鷺第十三号あけみちゃん子を成さぬママせいせいと飛ぶ ひとしきり怒り暴れて朱鷺は眠りなお宙を舞う羽の美し |
水野洋一 |
がんばれとお笑ひ芸人笑ひたる笑へぬわれはPTSD がんばれと絶対言へぬことばなりいのちの電話に友は語りぬ 幾千万蹴球みたとマスメディアテレビ点けつつ節電なるや 昨日までゴシップ語るキャスターが原発コメント茶を沸かすなり 愚昧なる教授・キャスター語るなりわれより知らぬと鼻で笑ひぬ |
震災の後に歌ふ 高橋俊彦 |
茜さす紫色のはな掲げたれを待つか桐の大木 電線の地下敷設成りわが街はたしかに奇麗されど客ゐず この狭き部屋に数多の絵を飾りわれは無聊の時を潤す 雪深き会津の里に彫刻刀一本の業 齋藤清 弱視にて切刻り上げし版画なり棟方志功のかの執念が |
鴇 悦子 |
祖母つきで子を避難させる話ありて家族は地震のごと揺れる夏 真顔して「嫁に行けないの」問いし小五の子どもフクシマの夏 健尊(タケル)と名付けし孫よ亡くなりし数多の命受け継ぎ生きよ 孫とう字つくづく眺め引き継ぎ終えた気のする健尊ち居れば 赤子見れば「元気に生きよ」誰かれなく声かけている未来託して |