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平成23年11月号
上石隆明 震災後取り壊さるるビル多く空の広さに幸せもあり
削られる土に残りし放射能健やかなる世に害を残して
ああ母がいつの間にかに娘になりていつも従う吾も哀しき
黒き雨降りたる時はいつなるや庭に咲きたる百合も枯れたり
鴉一羽飛び去る間際も福島の不幸がすっと心をよぎる
撓わわなる紅き酸漿仏壇に手合わす母の時間は長し
里山の生きもの図鑑
斉藤芳生
アカネズミおまえを今宵の友として働く我の生きもの図鑑
「里山の生きもの図鑑・秋」ページからアカネズミ一匹掌をによぶ
羽撃きのちからを愛すこのメスのオオムラサキの位置は中央
もうずっと洞に隠れていたいのに描かれて眠そうなヒキガエル
イノシシの子ども私の寝不足を飛び越えて表紙写真に遊ぶ
「ツキノワグマは増えすぎています」写真家は写真家なれば見たままを言う
水野洋一 健康に良いと聞きたるホテルには肥える蚊なりわが血を吸ひぬ
親と君流されたりぬこの春に高田松原墓となりぬ
Fさんは息子逝きたる春なりて副代表をわれに譲りぬ
君のこと思ひて来たる山寺にとむらひのためわれは来りぬ
フクシマの夏
高橋俊彦
フクシマと片仮名になりヒロシマろ比較されをり我が故郷は
行政のパンフレットは放射能数値すべて害なしといふ
稲わらを食つたといふ只それだけで地獄へ落つるほかなき牛ら
関はりは無しと思へど原発の事故のこの夏唖蝉多し
五六枚暑中見舞ひのハガキ受けかつんかつんと膨らむ心
我が母校決勝戦を闘ふと決まりし真昼向日葵まぶし
今も昔も
鴇 悦子
吾娘が泣く灯籠流しに声こらえ母になりても亡き姉偲び
亡き吾娘の携帯電話にメール打ち元気かと問いし日々ある日記
疲弊して家族の絆切れ切れと言う人ありて秋の風立つ
激震と原発事故の後襲い来る感情鈍磨何も手につかず
時期逃し蒔きしゴーヤの小さき実の熟す果肉は血の色をせり