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平成23年12月号 | |
上石隆明 |
生きるとは愉しき事と信じたき三月生まれの子を見舞いたり ふうと息吐きたる後の静けさが甘き心を含んでいたり 放熱をしたき体が疼きたる校庭走る子供らを見たき 夏の星あはあはとして消え去りぬ草食む犬の時は長くて 霊山の崖に立ちたる羚羊を昨日のごとく思い出したり 人間を嫌う毛皮が並びたるショーウインドウのまぶしく迫る |
鳥の足図鑑 斉藤芳生 |
ミサゴの爪の鋭く深くくい込める魚か入稿日の私は レンカクの大いなる足蓮の葉の上より出稿表に渡り来 沼よりも静なる机上レンカクを歩ませ出稿表確認す ヨウムよりも器用な両手を我はもち千円札の数を数える 真っ平な我の机上を二本指にダチョウが全速力で逃走す 誤字脱字を一心に拾うイエスズメてんてんと飛ぶ原稿の上 |
水野洋一 |
震災の荷を背負ひつつ友のたましひ眠りにつきぬ 気功にて四メートルは跳ばされぬ虚空となりし脳を思ふ 褒められて褒めちぎられて褒められて下村満子のエール受けたり 禅・気功すべて教はる塾長に素直がよいと語りつつある |
秋の光 高橋俊彦 |
ぶんぶんと機をば唸らせ草刈りぬ四肢を藪蚊に刺されながら あら草を刈りてもすぐに伸びてくるその強さこそわが晩節に 着替へせず出でて来たりぬこりやいかぬ老いては心すべき清潔 法師蝉、みんみん蝉の残党が啼きてゐるなり九月半ばも 今の猫ネズミはおろか鮒一尾与へても知らん顔してやがる 駄作とは百も承知の歌草と思へど苦しみ抜きて成りたる |
その後 鴇 悦子 |
原発事故ゆ張り詰めし糸夏バテとともに切れたり現変わらねば 報道の怖さを知るに十分な半年を経し福島に秋 熟慮なき支援の結果幾度も風評広がりてゆく あげる人なき無花果は秋の陽に鈴なりに熟れ鳥の啄む 温き色網より透ける酸漿か原発事故ゆ半年経たり |