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平成24年02月号 | |
上石隆明 |
台風と地震襲いしわが福島行政の人災を問う声多くて しくしくと収縮しくる冬空よ残光うすく吾を囲めよ 冷え冷えと見えし川面をゆうゆうと泳ぎし鯉は父に似ており 部屋隅の化粧箱より見つけたる幸福行きの切符切なし 添加物一切無しはまやかしか過敏になりしは震災のあと 金木犀嫌い嫌いの季が終わり何か良い事あるを願いて |
斉藤芳生 |
四色のインクの」におい渦を巻くように満ちたりた工場の内 働く人の指は太かり蝶の翅の青を機械に刷り出だす時 咳き込んでしゃがむ私の目に前に次々と刷られゆくクジャクチョウ 蝶たちの触角震う 大いなる紙に両翅の刷られゆく時 蝶の図鑑二千五百部 製本を待つ蝶たちの翅の鎮もり 数千キロの旅より帰る蝶たちを迎える大樹のように微笑む |
水野洋一 |
友人の魂は眠りぬ高田松在りし日の君思ひ浮かべる 伝統の重みばかりの盂蘭盆会札束舞ひぬ五山送り火 被災者の気持ち無視する大文字焚きあげせずと弾く算盤 妻子持ち修行すること易しからぬ女犯重ねし僧は生きゆく 法衣着て般若湯飲む坊さんは一升瓶を空にしてゐる |
錆び付きし英語 高橋俊彦 |
放射線漂ふ中に暮らしをり匂ひ色もなき恐怖なれ 福島の米はベクレル低けれど風評被害でお先真つ暗 老いてなんかやるものかとの勢ひでフランスへ来つ一人旅にて フランスへ行きたしと昔歌ひける詩人にすまぬとタラップを降る わが英語錆び付きゐしが意は通じルーブルも観きオルセーも観き マネの作「笛を吹く少年」はその昔少年倶楽部の口絵にぞ見き 出口まで行つても一度引き返し崇めたりにきミロのビーナス |
ストレス元年 鴇 悦子 |
汚染土に生らずとも良し油菜の種は除染のために蒔かれる 汚染土に芽吹き冬越す油菜の本葉は朝陽に向きて伸びゆく ストレスと狭さと寒さに冬越すか仮設住宅に住みし浜の人らよ 安堵する暇なき月日を過ごしきて年賀を出すとう気持ちになれず 被災地で年賀はがきは売れるのか喪中でなけれど私は出さない |