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平成24年03月号 | |
上石隆明 |
福島をフクシマにて詠みし人アナタの中の差別を憎む 一鉢の万両ひっそり熟しており今年も冬はわが前に来し いつもなら古米が終わるを喜ぶに福島の米に明日はあるのか この秋は蜻蛉を見ずに過ぎ去るも白き吐息は冬を告げおる 踏切の上がりしままのあの日より十月過ぎるも何も変わらず 新しき黒き手袋購うもこの冬過ぎるを願いておりぬ 真夜中に柱時計がひとつ鳴り眠れぬ我の身体を抜ける 信じたる神を持たざる吾なれど安積国造神社に柏手を打つ |
斉藤芳生 |
故郷は一夜の雪に白く膨らみて我の眠りを覆う モモイロペリカンに羽の桃色を出すために幾度も黒きルーペを覗く 色校を終えて歩めば東京の舗道には黄と赤みが足りぬ からからと晴れたる冬の新宿に空き缶のように我の早足 銀杏の黄を派手に散らして早朝のハシブトカラスは公園にいる 新宿御苑の美しき並木道に佇ち故郷の雪のひとひらを呼ぶ |
水野洋一 |
陸の孤島ふくしまとなりし日に元妻ルル電話来ている 四十二になつた話す元妻は心配だよとささやいている パリからの手紙はとどく英語にてブルーインクの文字はやわらか D・ハリーの映画観ているシャンゼリゼ彼を好きだと君は語りぬ |
後期高齢者 高橋俊彦 |
七十を五つ超ゆればすぐさまに後期高齢者と呼ばれる不快 向日葵は種を孕みて枯れにけり何をはらみて我は朽ちむか 百までも生きむと思へばあと二十五年はあるぞ何を為すべき 薬にて支へられゐししむらと思へば哀しわが日常は あまりにも友と侃侃諤諤の議論をなしてしょんぼり帰る 穏やかに今日も暮れつつあかねさす紫色に染まる安達太良 |
鴇 悦子 |
地震後の解体されし空間の傷口見ゆ空の広がり 地震原発事故に阿武隈川溢れ友は二階に住みて正月の来る 何事もなかったふりのできぬ日々胃炎になりぬ胃カメラ飲めば あーちゃんと呼ばせるように娘に言えりなりたて慣れぬ祖母のわたくし 破摩弓を買いに出かける道すがら小雪降るなか四季桜淡し |