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平成24年04月号 | |
上石隆明 |
真実は大方言えぬものなるか震災はたまた原発のこと ふっくらと炊き上がりたり新米は宮城産なり今年は切ない 蕗の薹甘味噌煮物はほろ苦し地場産なるは遙かになるか 昨年に無くししものを探す旅待ち遠しきものに不安はありて 食物の連鎖は哀し誰のせい放射能出しと蚯蚓の記事に 蜘蛛の巣は払いし後もまた出来ぬ生きる源見上げいし朝 「くい」と哭く心の奥に潜むものいち度は去るもまた現れぬ |
斉藤芳生 |
風信子の球根三つと同居する新居は新宿区中井二丁目 紅の風信子部屋に咲かせんと大きめのカップに水を汲む 風信子も香りを部屋にため込んでため込んで窓を開け放つ朝 花殻を摘みては棄つる風信子も呼吸のように香るわたくし ワンルーム賃貸マンションに眠らせるもうすぐ三十五歳のからだ 林芙美子に金の無心をするために四の差か上るわけではないが |
水野洋一 |
早々にバレンタインのチョコ来たるどういう意味か我は知らざり 寒々と震える君の指見つめ手で温もりを伝えつつある 花咲いた時に行かんと鶴ヶ城獅子座生まれは冬を好まず 東京を嫌悪している日々つづく都の思いすべて消えさる |
我ら生きなむ 高橋俊彦 |
フクシマよ涙流すな放射能広ごりをれど我ら生きなむ わが街ゆ一山越せば原発の被災で死にたる街が連なる わが家はガタガタなりと電話にて言えば従兄はしばし黙しぬ 神の子のキリスト・イエスに従ひて穏しく生きなむわが晩節は 髪を染め真つ赤なジャンバー着し我の心ははたち身は七十五 性欲を持て余したる時のあり鳴呼うつし身の早き目覚めに |
鴇 悦子 |
この冬の一番書き換える寒さ立てる襟元に磐梯下ろし 会津より寒き郡山風吹かぬ未明の頬にぴしぴし痛む 並べてみな想定外の一年にマイナス十二度原発事故の冬 ど、どどんと睦月晦日に落ちる雪春の雪だと夫の呟く 「福島に来て」文字見せバスの背の小さくなりぬ東京行きは 毛糸持て束子編む手は娘に編みしセーターいくつか覚えておりぬ |