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平成24年05月号
上石隆明 目薬をたっぷり刺した冬の夜思い出したる猪苗代湖を
大地震から注ぎし陽光変わりたり心の奥底蝕むように
砂場遊びは出来なくなりて子らのやさしき時は取り返せずに
セシウムを吸い上げくれずに向日葵はただひたすらに狂おしく咲く
この地には逃げ場はなくて冬空に飛んでおりたり差別という風
またひとつ母の薬は増えており残りの時間を買いたるごとく
斉藤芳生 竹製の祖父のものさし濃き墨の文字に書かれていたり名前は
むずかりつつ父のカメラを見ていたり亡き祖父に抱かれて我は
祖父のものさしをもてよれよれになりしこころをぴしりと叩く
頑丈なものさしなれど祖父も私も測りきれぬもの増ゆ
ものさしに測りきれないものの増え 祖父の遺影笑い給わず
祖父の「杓子定規]という強さ抱えきれずに時折しゃがむ
水野洋一 孫、曾孫避難している沖縄に悲しい面に母をみるなり
フラガール見れば見るほど涙ぐむ真赤な面に怒りみえつつ
マスコミに巨額な土産送りつつふくしま悪い語る報道
「あさいち」のキャスター語るふくしまを悪いと責める無知な国営
独身を通しつづけた兄思い哀しみ深いビルマ戦線
次の世こそ
高橋俊彦
いにしへの姫のごとくに黒髪を伸ばしてみたし次の世こそ
朝はパン昼はカップめん夜のみは我が手製なる野菜どつた煮
くたくたに成るまで仕事を為してゐる娘よむすめ父もさなりき
をん鶏は得意絶頂めん鶏の真ん中にゐて携帯使ふ
人は皆からがの隅から老いていゆくかの男性は後頭部から
鴇 悦子 牛使い田起こし畦塗る雲南は佐渡の幼の記憶を戻す
棚田見て結い思い出す田植え時、屋根の茅葺き道普請の佐渡
「きれい」とう言葉つかわぬ佐渡訛りヨガする時間に思い出しおり
孫生ましと告ぐれば医師はにこやかに貴女の生命が繋がったねと
しんとして明るき目覚め塀に上十数センチの雪のぬくもり
猫時計猫には猫のスケジュールありて眠りに誘う声する