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平成24年07月号
上石隆明 ふゆばれの狭庭みごとになにもなくねがいておりぬどこでもドアを
がんばれとかけらるることおおき地にすみてまもなくごじゅうねん
よりそえるひとがいることしあわせをかみしているひばくいちねん
頭のなかにはきのうのごとくよみがえるみずがないときガソリンないとき
たえきれぬことはなにかと問うひとへカタカナになるふるさとの名を
江戸前が死語になるかもしれぬよとセシウム増えてとNHKも
胸底にカラコロ鳴りてころがれるかなしみの石みんなにあげる
斉藤芳生 除染のためにつるつるなりし幹をもて桃は花咲く枝を伸ばせり
桃の花散るたびに我を忘れゆく祖母なれど桃の花をよろこぶ
手を振れば眩しき春よ祖母は銀色の車椅子に座りて
天人唐草ほろりと花をこぼしつつ刈られたり畦の除染のために
この雨が上がれば芽吹く福島の大樹は千の小鳥を招き
守るべき大樹を裡に戦がせて我も驟雨に靴を濡らせり
水野洋一 東京に憧れぬまま生きし今原爆雲が浮かんで見える
原子炉は定年退職願へども受理されぬままそこにありたり
ひび割れた原子炉使ふ東電のみさぼる姿をかなしみて見る
みちのくを脱出したい諸人はロマとなり歌えをうたへよ
いきのびしことから逃げてはいかんぞと陸前高田の友は語りぬ
震災後折々を
高橋俊彦
百年の家は地震にて傾きたれどわが産土にあれば去りえず
病む姉を今日も見舞ひぬ別れぎは掌をし握れば泪出でたる
我が出来る料理は一つはカレーなりされど四五日食はねばならず
珈琲を我にこぼしし乙女には洗濯代は請求できず
季は廻り
鴇 悦子
懼れつつ測定受けし我が畑キャベツ不検出顔はほころびぬ
十余年有機の畑の地力知るキャベツ油菜不検出なり
同じ春廻り来れども山帽子若葉の色の今年眼に沁む
凍み色の牡丹の葉芽の開きおり命の水を吸い上げて今朝
ふる里の野生の鴇の孵化知らす弟の声佐渡人の声
島中が湧きたちいるか鴇の孵化稲を作らず泥鰌を撒く人も