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平成24年08月号
上石隆明 赤シャツに抱えきれない悲しみを浸み込ませている被災者地の春
福島の村は消えて無くなると菫ふるえて静けさ誘う
帰ろうとあの人言えりあの村に湿りし洞が打ちひしがれても
つんつんと牛肥の匂うバスが来て乗り込んで行く坊主とわたし
月光が鋭く照らす自動車にチワワ三匹飼われていたり
地の奥を何かが走りしあの日よりアスファルト道は隆起したまま
斉藤芳生 東京の我に雹降る 不採用通知を四つに破りて見上ぐ
髪解けば背中に重くうねる日よ逃げようのなき雷雨をくぐり
落雷に土蔵閃く 祖父の『福島県政戦史百年』
黴臭き祖父の土蔵を逃げ出して新宿の月を見ており我は
花筏くるりと回り祖父が煙草を深く吸いいし記憶
月出でぬ青く伸び行く自が影を追うように祖父の不在を渡
うつ伏して深く眠れば私の肩に福島のふきのとう咲く
水野洋一
病床六尺
高橋俊彦
いちしらに桜は散りぬ病床にわが臥して視る夢の間に間に
膵臓に悪性腫瘍がかほ出して我がししむらはいたく傷みぬ
ぼうたんもいつしら終はり病床のわがししむらの置き処なし
死は易きことかも知れずすべてわれ神にゆだねて眠りに入らむ
鴇 悦子 収束などしない福島去年今年妊婦のわが娘ら世話する疲れ
原発のストレスは猫まで及び構わぬ我噛むと苛立つ
新機種の機械はなべて許容量狭く我の心に似てる
児の無事を祈りて一体置く習い梨の木地蔵数多苔むす
生命とは朝の蕾夕つ方わが身ほぐして咲きし黄水仙
高齢者進む郷にて鴇の雛ベビーラッシュに若返りおり