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平成24年09月号
上石隆明 大熊に再び帰る場所はなく里心湧くとウグイス鳴けり
不如帰ふた鳴き声したるこの朝もくるしむ陸奥に青空はあり
他人事になりたる事の恐ろしさ原発記事が縮小しゆく
もう無理と素直に言ってしまえばいい絞り出せないもどかしい呻き
切り取り線福島の地に引きたるを我慢できずに首長は叫ぶ
治まるか納まらないかが問題だ五十年後に結論がある
貨幣博物館
斉藤芳生
古に我あらば美しき子安貝を報酬として清く働く
引き換えに大きな魚を手に入れる豊かさよまろき南洋の貝
労働はのどけからまし対価なる南洋の貝を壺に貯めれば
支払いも愉しからまし大いなる石の貨幣を転がしゆかば
ガラスケースの中に軍用手票あり祖父たちの指の跡残しつつ
顔を上げて働きにゆく紅の傘より雨を滴らせつつ
水野洋一 購ひしソファーに眠る母みつめミルク色なる髪を見るなり
家庭的ドラマ多かり韓流にわれも好んで眺む日々な
愚かなるドラマ見ない友人は避難してゐる天童温泉
久しぶりウオークしてゐる会津路を稲の緑が輝きみえる
高橋俊彦
並べて生命は
鴇 悦子
女孫産まれて二日目不意に喜びの胸に湧き出づ六月青空
吾娘の血を受け継ぎ美優は泣き眠る生命の不思議にじっと顔を見る
原発後に生れし健尊は一歳に餅を背負いて重きに泣きぬ
鴇八羽無事自立して餌を食みて郷の空舞う日ついに来たりぬ
半世紀前見し鴇今郷に幼鳥が舞う姿TVは映す
孫生れて老いきし猫は手を取られ淋しい目つきで吾を見つむる