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平成24年11月号
上石隆明 子の匂い浸み込む布団を干す日向菜の花の丘思い出させる
ずたずたと吾の心を踏み荒らす象のごとしも息子というもの
照り狂うアスファルト道行く乳母車陽炎のごとく消えて行きたり
階段を美しきひかがみ登り行く恐らく父を毛嫌う乙女
大宮駅ビルの間に間に富士が見え祈るがごとく手合わせし母
湧いてくるいかりを沈める手段なしグレーゾーンの多き世なり
斉藤芳生 祖父を思えば瞼の震うなり猪苗代湖に雷様(ライサマ)が来る
私の愚痴のようなる濁りとも湖に巨き雷魚ひらめく
我が背をはるかに超えて積もりいし雪なりき祖父の一生を覆う
亡き祖父を恋しがりつつ祖母眠りあけびの熟れるように口あく
鉄の鍋歪みて黒し東京より嫁ぎし祖母の嘆きのかたち
熟れしことのなき我を恥ず祖父に「中途半端(ナマラハンジャク)を叱られこと
水野洋一
病床六尺
高橋俊彦
遂に来た篤き病が七十五年使ひ続けた我がししむらに
九時間も黄泉の世界をさ迷ひぬ今し目覚めてベットにし臥す
食事をば摂れずにあれば夢の中にイエスが現れてマナをくれにき
担当の医師の名前は光法(ミツノリ)で弘法さまに似たる人なり
次回より抗癌剤を打たむとの医師の言葉にただに頷く
鴇 悦子 竿燈の蝋火の数多上がる夜の蒼き空中(ソラカナ)温き色せり
竿燈の提灯の温き色見れば己の中は縄文魂(ソウル)
影ありて光は輝き耳飾りの少女は振り向き何を呟く
未来とはこの児の頬の柔らかさ何にでもなれる澄みきった瞳
くっくくと笑いて我を見る孫の濁りなき眼にたじろいでいる
あらかたを過ぎ来し我になきものは真白きカンバスきれいな絵の具