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平成25年02月号
上石隆明 死を選ぶ中学生がいる国に戦わずして負けたる心は
色のなき世界がはかなく沈みいし心を捨てた中学生は
息を吐きふと寂しげな仕草あり飼い犬我の真似をしたるに
ひとりきりみんなと違う煮汁焦げ中村勘三郎死んでしまった
感情が高ぶっていたのさあの日から途切れていたり飛行機雲が
夢の鱗剥がれるように眠る人予定は未定で死は近づきぬ
斉藤芳生 『マヤ暦」を信じるわけではないけれど落ちてくる雨に視線を落とす
キャリーバックのキャスターがら、がちゃん、と外れそのように壊れそうな東京
音を消して故郷の雪を見ていたり満員電車の中のi-Phone
「気をぬいたらこのチームだって吹っ飛ぶわよ」受話器にピアスのぶつかる音す
「お湯だけで落ちるマスカラ」五分間泣いて指(オヨビ)にするする落とす
東京の雨に霙の混じりゆく朝をビニール傘越しに見る
水野洋一 大病を患ふ四年生好きだつた野球する夢全て潰えぬ
中高の修学旅行もいけぬころ母にぶつけぬ辛い思ひを
憧れた清水寺の夕焼けに修学旅行は二十三歳
友できぬわれを庇ひし父親と共にゴルフを五十数回
点数の話はせずに湯に浸かり父は流しぬわれの背中を
入院生活
高橋俊彦
膵臓の手術迫れば看護師は清むるいひ臍まで洗ふ
じわじわと痛み増しくる処置をされ明日の手術が思ひやらるれ
妻のなき我は痛みを独りにて耐へねばならず泪の出で来

鴇 悦子
枝も花も真っ赤に燃えて道端に心震わす箒草立つ
鬼灯の葉脈残せばまろき実が灯りをともす靴箱の上
黄の衣まといて銀杏樹真夜に浮くもろ手を合わせ祈れるごとく
狭庭に咲くぽんぽん小菊手に抱え隣家の供花にと訪いて置きくる
ゼリー状にとろける甘きおけさ柿友送り来ぬ郷の味とて
焼き芋屋とまがう音楽鳴らしゆく夕車、灯油売るとう