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平成25年03月号
上石隆明 夕暮れのかけがえなきもの安堵感母の入院7日目を過ぐ
地の底の怒号のような音も消え震災復興目には見えずに
パソコンの画面に映る丸き顔仕事始めにあなたは嘆く
カーテンが師走の風を纏う頃真っ赤な金魚死んでしまえり
自分ひとり頑張っている錯覚が妻のひと言心に染みて
無になるは死後の世界を見る事か墓前に供えた白米の湯気
斉藤芳生 ご期待に添いかねます、と言うようなぐしゃぐしゃの雪に転んでしまう
ひとも樹木も佇つほかはなき東京に雪よりも音をたてぬ哀しみ
ぱりぱりに乾きゆく白きタオルあり東京の冬晴れにひらめく
通過電車が巻き上げてゆく東京の雪を花屋も私も浴ぶ
チェーンを巻いたタ踏んでゆく雪よ汚れつつ東京を湿らす
水野洋一
ベクレル
高橋俊彦
ベクレルがやや高しとて一年をかけて作りし米を廃棄す
この年は国が買ひ上げ呉るるけど先は闇なる福島の米
セシウムに汚れし空気を吸う他に選択はなき福島の民
七十と五つともなりかく夢は見るははづかしフロイトさんよ
入れ歯ゆゑ餅さへ食へぬ我なるを哀れみ給へビルゼンサンタマリヤ
雪脚の速き朝なりまう少しゆつくり行かむ我が晩節は
佐渡行
鴇 悦子
幼らが海と声あげし阿賀野川競艇場の看板のあり
時化来れば渡れぬ本土繰り上げてフェリーに乗りて渉る新潟
難聴を患う弟を訪いて戻る本土新潟あられぽろぽろ
弟を見舞いて帰る磐越道テールライトの行列を追う
沙羅に海松まで切りて二年近く、寂しき庭の除染始むと
偏西風吹けば線量気になりぬ公園の風下に住みおれば