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平成25年04月号
上石隆明 子を亡した友のエッセイ読み終えられず心の置き所場掴められずに
「橋脚を補修します」と立て看板いのち繋ぐごとく色塗られたり
ガス管を地震に強くと掘り返す長深き孔に恐怖が募る
青空が突き抜けて行く朝餉から<安積舞>より上がりし湯気は
仏前に供えし後のご飯なり近ごろ雀は食べてくれずに
ひとつづつ薬が増えし齢なり老い直前のスタートラインか
斉藤芳生 復興景気のこれも花、か 仙台の瓦業者に友転職す
「八重の桜」台詞の語尾のわずかなる不自然をふるさとはよろこぶ
磐梯山のスキー場痕美しく消されて大河ドラマ始まる
ヒヤシンスの球根店に並べられ都心の冬は駅より解ける
制作中の教材ビデオの背景に東京中の造花を集む
塗りたての床なればスニーカーを脱ぐ雪よりも冷たきホリゾント
水野洋一 碧祥といふも懐かしペンネーム放射線量なかりしものを
神仏を信じたくない信じない神国日本何処にあらん
点滴の母の血管ぼろぼろに疲れ滲みぬ八十五歳
家族的ドラマ消え去る日本から韓国版を眺めておりぬ
耳遠い母は好みぬ字幕ある韓流ドラマ妻の誘惑
補聴器を勧める我に耳欲しい小さな声で母は語りぬ
昔大鵬されど今は
高橋俊彦
サハリン遥々ときて名を掲げし大鵬七十二歳にて逝く
日馬富士一月場所を闘ひてゴビ・アルタイに酒杯を捧ぐ
最貧の国のひとつの北朝鮮が核を持つといふ政策あはれ
独り行く命のマーチ一・二・三遂に来ました七十六歩
一生は一度の謂ひぞぞの一度いかに過ぐさむ炎燃やして
凍み雪
鴇 悦子
氷柱垂る冬の除染の話延び許容限度をとうに超えてる
三十年帰還せぬとう長の言葉知人は家を建てて十年
雪積もれば線量下がり春来れば舞い立ち上がるセシウムの塵
すんすんと雪積もる朝明るくて冬が静かに鎮座する庭
陽に解けて夜は凍みる雪幾日乗せて重みに耐える伽羅の小木
びしびしと音立て車の去りゆけり昨夜の雪の積もりて凍みて
三月に終える予定の除染とは机上の空論積む雪凍みれば