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平成25年05月号
上石隆明 歳月が滅ぼしてゆく姿あり沈淪嗤いし母の細腕
新鮮な驚きとなり子の新居望む姿が逞しく見え
震災後古びたる家々壊されて雑草生えし空き地増えゆく
仏壇の白菊年を越えたるも意地を見せしか枯れずに三月
かけがえのなきもの何と問いたるも記憶底に蠢くは何
はめ込めぬ言葉のパズル解くごとく母の入院三月となりぬ
濁りたる音を響かせ遠ざかる母を乗せたるの救急車行く
斉藤芳生 fもう二年、まだ二年、風渡る明るさに行きたかった二年
三歳になった子の靴ざぶざぶと洗われてどこにでも行きたがる
おさな子はまろきゆえまろきもの好み私の頭も撫でてくれたり
胃腸薬直径九ミリの白き粒呑みこめば花のかたちにとける
Tシャツのよれよれを干す平成の我になき会津木綿のかたさ
ドコモタワーの上から春は 駅前の梅のつぼみを咲かせに来たり
髑髏
水野碧祥
煌々と省エネもせず品プリの髑髏の服に骸骨模様
世界から疎外されぬを知らざるに原発違いと語る髑髏は
世界一債務国に余裕なくスペイン風邪は髑髏を襲ふ
花見山近くに生れど洟提灯の髑髏国会
蝋梅の花
高橋俊彦
蝋梅の花の強さよ降る雪の影を写してひと日耐へをり
老人の女性がひょういと取り出した書名は「レベッカ」見かけによらず
「五輪書」はオリンピックの書ですか?と言ふ若者にたぢたぢになる
「命より歯は大切」といひにける歯科医の言を今にして知る
お粥にて命をつなぐ我今はかつての医師の言にうなづく
わが家のみ大き声にて豆撒けり今は居ぬのか忌むべき鬼が
鴇 悦子 梅の蕾ほどける頃に二度目なる癌の手術を夫は受くる
果てしなき土竜叩きの肝癌の手術を受くる縁側の夫
帰っちいと言う母置いて来た夫、ホームに入れて卓に顔伏す
セシウムの半減期来る二年目に除染準備の調査の来たり
欲しきものめがけて立てる嬰児の眼を追う先にある物ティシュ
原発後生れし健尊はたまに来て「トンボのメガネ」を笑顔で踊る