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平成25年08月号 | |
上石隆明 |
二日酔い微かに残る昼餉には身体が欲す味濃きらーめん 狂うとは容易き事と思えたる昔の記憶に心ざわめく ガラス貼り高層ビルに慣れし頃理由も問えずに辞めたり吾子は むしろ愛は少しも減っていないぞとマニキュア濃き指プルタブをひく 我が死なむ後を思えば気が滅入る母を残していけぬ事など すれ違う傘の景色に慣れぬ吾空虚消すため雨の中行く |
斉藤芳生 |
もうやめっぺ、で済むこと何もなき故郷おぼえて雨に伸びる向日葵 苛立ちはやがて哀しみ 被災者と言い合いに草は露をこぼせり 大杉は饒舌であり半身を伐られても千の小鳥を呼べり 杜鵑啼いているなり除染土のしんしんとかたまりゆく夜半に ペトリコールのにおう街路を踏みながら私を探しに来る父祖の靴 |
水野洋一 |
雨降らば頭を覆ひ走りゆく放射線量いまだ消えざる 雨降りし野地温泉の鬼面の湯パラソルさして湯浴みするなり 歌詠めどマス目に書けぬ時もある腕の震へは未だ止まらぬ よく怒る人になりける震災後母にあたりし時は恥づかし |
茶房にて思ふ 高橋俊彦 |
蝿一匹神の創造物なれば打つをためらふ茶房の卓に わが眼には見えねど確かにある空気いま風となり帽子を飛ばす 五月雨に濡れていよいよ艶を増す白きカメリアわが手植ゑなる ちぎれ雲追ひかけごつこする様に移れる先は原発被災地 わが独り残されにけり女らのお喋り終わり静もる茶房 |
鴇 悦子 |
波先に小佐渡大佐渡見え来れば我の身体は郷に包まれぬ 銅鑼なりて「おけさ」訛り聞く船室、おじの荼毘には間に合わぬ距離 道端にさりげなく花延年齢草帰省せし春カメラに保存す 郷で見る荒海渡りし北前船復元されし太き帆柱 金藍草絶滅危惧種、増えたるを佐渡のテレビは何度も映す 猿、鹿の看板多き磐越道トンネルの中で福島に入る |