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平成25年09月号
上石隆明 荒れ狂う不器用なまでの苛立ちは警鐘鳴らぬ遮断機に似て
誰も居ぬ平和通りの交差点久しぶりでも坂は続きぬ
きみ語る夢物語に馴染めずに珈琲冷めしもおかわり出来ず
頬というこの聡明な柔らかさ姪の息子はまるまる太る
残照に一瞬乱れし噴水は本当の色示し膨れる
赤い蝶
斉藤芳生
蝶のように描かれている甲状腺私に教える伊師の指先
甲状腺赤く描かれ私のそれは二倍の大きさであると
甲状腺カルテに赤し私に滝のようなる汗をかかせて
腫れてしまった両眼はもとに戻らない戻らない眼で読む処方箋
腫れた眼に見ており夏の東京に陽を受けながら降る強き雨
「パセドウ病の手引き」に私の腫れた眼を治す方途は書かれておらず
パセドウ博士に手紙を書かん、愚かなる二十一世紀の患者より
水野碧祥 福島を孤立孤島と報道者百万円の背広着てゐる
放射線量岐阜県以西に高レベル黄砂の国の核実験は
七輪の秋刀魚の脂落つるたびかをり漂ふ貧乏長屋
雨だれの音は響きぬ天井に滴滲みぬト音記号に
継ぎ当ての大きく目立つズボン穿く母の縫ひたる襤褸(ボロ)を誇りに
腰痛
鴇 悦子
山帽子柿切りて二年後、ひこばえの数多出る強さ元気出る庭
二年過ぎ我が家の除染終えてより捩花の咲く庭見る安堵
福島に戻りて産みし吾娘の子を見つめる眼差し母の顔せり
下限値の五ベクレルでも不検出。測りし人が欲るラズベリー
孵化をした目だけ大きい黒メダカ五ミリ未満の体で生きてる
寄るべなき
中根次朗
終りなき日常生きる群れのなか終り有る身の寄るべなきかな
吾があとを伝ひ歩きて追ふて来る母が足元幼児のつまさき
丑三つに眠れぬ母子の霊のごと差し向かひつつ茶を啜る夜
今日今宵いつまであらむ掌の温みこれを最後と吾が掌添へつつ