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平成25年10月号
上石隆明 すっと立つ誰が現し身かコロボックル夢の世界へ導きくれし
不可思議にわれの息の緒整いてまなこ穏やか母の退院
滝桜ふるびゆく身を支えられ千年経ちしと風と紛れる
垂れし枝零るるごとく桜散りプププとつぶやく千年のこと
あやうしや気持ちを呟くツイッター丸ごと膨らみ吾見失う
斉藤芳生 甲状腺この桃のように熟れいるか 桃の後薬二錠呑みこむ
視神経の検査は天体観測に似ている 光の瞬きを追い
眼科医の指先を四方八方に追いながら眼球は震える
会計に活けられた百合の明るさに受け取る「パセドウ眼症」の文字
避難者の苦情、避難者への苦情 ハナカンナ遂に大きく傾ぎ
猛暑日の空より青く途方もなし除染土をブルーシートは覆い
ブルーシートの中蒸れている除染土の中蒸れている種子もあらんよ
水野碧祥 雲の峰遙かに逝きし君思う安達太良見える君の家から
夕暮れに毎日続く夕暮れに生かされる人何に生かされ
白き指触れて飲むなるストローに口紅ひかぬ君に惹かれる
ラムネ水つまらす我に微かに伝わる君の温もり
野馬追
鴇 悦子
引き締まる騎手の顔見る野馬競馬人馬一体ゴールを過ぎる
人災の原発事故を忘れさす甲冑競馬は前へ前へと
騎手落とし場内二周せし馬の眼虚ろか騎手は動かず
原発忌二年目迎える野馬追に避難者の乗る神旗争奪戦
神旗取れば歓声の声あぐ若き騎手高く旗上げ坂上がりゆく
世襲にて童女が馬に乗る帰途はは雲雀ヶ丘ゆ仮設の家へ
明日が日も
中根次朗
丑三つに褥瘡ぐすり母に塗る半睡半醒母子朦朧
毎日のめぐりまぐりて走馬燈いつか倒れこむ独楽のごとくに
はぐれける友にふたたび逢はむとやしるべもあらぬ夢の迷ひ路
梅雨雲の己が重きにたへかねて峰覆ひける白妙の衣
見上ぐれば水墨画の雲の濃淡のところどころに青空の透く