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平成25年11月号
上石隆明 立ちのぼる蚊取り線香くすぶりて始まる介護は母の骨折
濡れている松の細枝たっぷりと彼岸此岸の水は満ちたる
自らがプルルとなりし豆腐なりスプーンにゆれる歪むわたくし
冷え冷えとしたる我の足先をつけても熱き子がいる幸が
思い出の解釈少しずれ始め母の記憶が溶け行く九月
白髪より恥ずかしきもなり白き髭鏡に映るこのうす笑いも
斉藤芳生 胴太き鯉たちの貧欲な口に麩を投げやれば我も泡立つ
大切な何かあったやも知れぬ 真鯉に喰われて跡形もなし
かなしみのような糖度は増しゆく桃の畑に陽の傾ぐとき
河川敷の除染作業はざわざわのわさわさの、先ず穂薄を苅る
粛々と掘ることもまた祈りなれ除染土を深く埋めるための
阿弖流為はおらねども夏、おのこごの歓ぶ鋭き速き乗り物
水野洋一 愚劣なる動画見るほど心的に障害受ける人を思わず
賠償金値切ると語り社員らの高給いまだ続きつつある
稚拙なる本を著し金儲け被災者の金毟りとるなり
国難に左翼右翼の区別なく危機感募る安保条約
古里に住む人変わり切捨てる明治維新の戦のように
風化T
中根次朗
そのときの来たらむ日までひとは見るこの世に終はりなきてふ夢を
フクシマに如何なる咎のあらむとやミヤコの電源なりしばかりに
欲塵の堰のこはれし現世の泥に孵りし吾が心憂し
層厚き雲母の梅雨雲ひび割れて青き光にこぼれ降る夏
地響けるいかづちのみぞ聴こえける遠き母の耳震はせよ天
老いし母が水永らえむそのほかに何もなきなりこの世の吾は