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平成26年01月号
上石隆明 「ほうれん草胡麻和え」砂糖多めなり息子の弁当に入れおり今朝も
我好む日の丸弁当食べられぬ息子の為に散らすふりかけ
研ぎ込みし包丁ざっくり差し込みし戻り鰹の赤身輝く
仏前のご飯多めに盛りし日に風邪引く母の回復早し
霊魂が永遠に漂う波打ち際しずかな真昼に去りゆく鴎
ポキポキと歪みし身体は笑うこと忘れていたり残業続く
ポンコツの健康検診車通り過ぐ白煙上げてもまだ負けぬとぞ
遡上の朝に
斉藤芳生
ソロザケの鼻先という鼻先をあつめて鈍く光る河口は
濡れてゆく桜紅葉と鮭たちの川底を上る影すれ違う
鮭は戻り砂礫にからだ擦りながらしろがねの鋭き水に真向かう
遡上する痛みに飛沫烈しくて鮭よおまえの鱗も混じる
産卵を終えしからだの平らさに鮭浮いておりしずかなる岸
産んで産んで我も死にたしからっぽになったからだを水にさらして
産み終えし鮭の骸を奪い合い鴉が鳴けば落ちてくる雪
水野碧祥 君が代を心で歌ふ選挙権黙したままに優勝祈る
ペナントを奪はれ帰る東京に楽天球場霧雨の降る
折り込めばバット振切る打撃陣霊力受ける彼岸の人の
大漁旗大きく降つて声援を「銀次」に託す仮設住宅
球場の外に観戦万人の優勝風船天を翔け行く
鴇 悦子 作物を食べる前にはベクレルを測るひと手間煩わしさのあり
とちとちと右左出し二メートル歩いて吾娘の胸にみどり児
まねぶ時期ありてみどり児本繰りてペンギン体操日々うまくなり
蕎麦がきとはっとう食みて米取れぬ村の暮らしを味わいし旅
尾瀬歩き足の疲れを休めしは冬は孤島になる檜枝岐
どこからか冷たい風吹く家だなと思った私が笑ってなかった
入院
中根次朗
あはれあはれ飲食服薬うけつけず点滴のみにて生くる母あはれ
六畳の病室やうやくあてがはれ母が最後の閨とならむや
盗人に入らるる夢見しその明日(アシタ)母は逝きたり挨拶もせで
十年の介護生活唐突に終はりの来たる文化の日の朝
彼岸への道に迷はば帰り来よ藤椅子も吾も主(ヌシ)待つらむぞ
うたた寝を咎むる者の在るうちの花なるべしと母に言ひたる
うたた寝ゆ覚めて毛布のひとひらもなきこそまことの独りなりけり