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平成26年02月号
上石隆明 行りたる化粧をほどこす乙女らの睫毛が長く鬼に見えくる
晩秋の日溜まりに干す花柄の布団に蜜蜂止まりし一匹
子の背中抱きいて眠るかの夕べ幸と言うほか言葉浮かばず
三年間作りし息子の弁当に必ず入れたるほうれん草胡麻和え
空き部屋の風雪に耐えし表札の薄れし文字の寒さを悲しむ
手を繋ぎ眠れる事の幸せや南の窓にひかるは朝露
沈黙は悲しむことか過ぎ去れば仮設住宅は応急住宅になる
斉藤芳生 渡し場に舟もうおらず母と子は橋をゆく赤き車を数え
除染とて高圧洗浄する壁を避難する菊、厚物管物
除染。昼。霜のとけたる石塀の蔦紅葉すべからく剥ぐべし
虹の写真Facebookに分かち合い微笑みは見えぬけれど友だち
濁り水に映すこころも呑まんとす胴の太きを翻す鯉
「花しかねえ」と中学生我ら笑いいき冬の陽射して遠き桃畠
水野碧祥 若冲に惹かれ訪れ美術館銀杏並木の絨毯踏んで
若冲の図録に署名受けているプライス夫妻の温い掌
足舐める虎の肉球柔らかに爪は描かぬ伊藤若冲
白鷺草のはがき届くは四年前忘れ得難い恩師の笑顔
高瀬川ひかり煌く古書店に拾い読みする季節は穏やか
伊勢参拝
鴇 悦子
ひいやりする五十鈴川にて手を漱ぎ小さき魚の命を見つむる
内宮の芽の切り口は新しき社殿に向かいて小さき願い事
二十年耐えし芽葺きの薄さ見る我にもありし過去見るごとく
写メ撮りて二見ヶ浦の夫婦岩二人で映るいい夫婦の日
浜名湖で伊勢の疲れを湯で癒す中空に一つ明るき星出る
浜名湖を眺めて入る温泉に癒えて眠れる伊勢参拝後
永訣
中根次朗
十年間母が最後を支へたる骨(コツ)に紛るるチタンが一本
病院に母はつぎつぎ奪われぬトイレに食事いのちまですら
ふた親の介護せむとて帰り来し故郷に早や二人もう亡し
冷蔵庫内の鍋底こびりつく母が形見ぞ鰈の煮付
幾そたび目覚むる吾は驚きぬ母はこの世にあらぬなりけり