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平成26年03月号
上石隆明 帰京せし息子を思う侘しさは大好きな鍋食べさせられぬ事
習いたる古文の記憶残らぬもがむしゃら短歌作りし二十歳
元日に籠もりて聞きし「南こうせつとかぐや姫」記憶鮮やか学生時代の
弱りたる心を示すか口内炎増したる痛みは叱られるごとく
老婦人「二口ポスト」に迷いおり孫に送りし年賀葉書なる
たくさんに思い出つまりしレコードは何処に消えた「天国への階段」
斉藤芳生 遠い遠いあなたよ 雪降る川の面にはだかの指を触れて帰りき
阿武隈川の大きく蛇行するところ底深く潜りゆくや寒気は
残りいし凍田の二枚売られたり杭打ち込めば土のかおるを
川底に揉まれ揉まれてまるっこい小石のような方言である
蚤祖神社遷移の後の空白に雪降らしめて低き空かな
片恋は手袋をせぬ掌にありて寒木瓜に降る小雪をはらく
伊藤若冲展
IN福島
水野碧祥
散り染める銀杏並木の絨毯を優しく踏みぬ美術館前
碧空を黙し眺めん信夫山あまたなる人銀杏並木に
行列をつくり並ぶも楽しみに澄んだ空気を胸に吸ひ込む
若冲の余韻に浸る茶房からモカ珈琲にかをり仄かに
原発禍
鴇 悦子
避難した人避難する原発禍福の島ではなくなった県
もう元には未来永劫戻れぬと言う町あると政府言い始む
孫連れて週三夫が通う場所屋内遊び場ニコニコ館
にぎやかに走り回る児あまた居る屋内遊び福島の現
友と会いし料亭の庭色乏しき師走に黄色の斑入り石蕗
暴風雨去りし冬空薄桃のお椀クラゲのような綿雲
永訣U
中根次朗
抜け殻の骨灰残し母は今煙となりて天に昇れり
つとめ終え「煙」と往(イ)にし垂乳根の吾をつつまむ「世界」となりて
垂乳根の在らぬを忘れるためにのみ蒲団にもぐる今宵の吾は
吾が夢のいつも誰かとはぐれけり現世さへもはぐれぬ母と
丑三つに茶の間に亡母独り居て煎餅齧る気配のすなり
忌はしき年の早くも忘れなむ暦めくれり明けぬうちから