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平成26年04月号
上石隆明 今ははなきコピー用紙の裏・表何が真実さやけし真昼
漆黒の闇を抱きし図書館に音も漏れだす本の囁き
しっとりとぬれたる時空か図書館に溶け込めなくて男の舌打ち
満員の新幹線はうら寂し富士を望みて安堵す日ある
夜毎みし卒業出来となげきおる下宿の廊下は果てなくつづく
テングスのように絡まる親子なり肉叢疼くも闘いし日あり
斉藤芳生 福島盆地泥ごと凍り雪は降る降りやまぬ雪の中に守る灯
鼻に吸い口よりほうほう吐きながら息をして雪を掃き続けいる
鳥のように飛べぬ我らの歩むとき新雪に深く残す足跡
新雪に故郷明るみ朝に差す目薬の青き一滴も冷ゆ
白鳥の巨き翼が抱きに来る阿武隈川に雪降りしきる
軒下に氷柱は太く育ちゆき大寒の夜の祖母の甘酒
寒雀我ら故郷の大雪に身を寄せ合いて青き火を焚く
水野碧祥
水野碧祥
碧空の天に聳える吟道を極めんと欲す愚闇の身にて
遺言に「諦めるな」と父の声歌い続ける今も昔も
九段に「碧祥」と号する吟道の二十余年に時は経にける
教場を持ちし時ある彼の季節に元気溢れる碧祥教場
碧空の下に輝くタイ寺院エメラルド寺院我は好みぬ
睦月葬送
鴇 悦子
召されゆく人の命よ指先に残る冷たき正月三日
義父と同じ一月三日叔母逝けば連れて行きたしと従姉妹の呟く
膵癌を患い義父の命日にありがとうと書きて叔母逝きませり
睦月七日空は冷たく澄みわたり火葬の煙まっすぐ天へ
源氏読みコンサート聴く洒落た叔母八十三で遺影に笑みぬ
我が齢も近づきいるか寒ありて三人送りぬ睦月の空へ
永訣Ⅲ
中根次朗
モルヒネに眠れる病母長唄の拍子取る右手(メテ)夕陽射せり
護りたるつもりが護られてありしこと知り初めにけり火葬の朝に
母は何の形見も残せぬと告げ逝きぬ、されど与へしこの血のゆかり
現世(ウツシヨ)に吾を目守れるものありや藤椅子子に立つ遺影ひとひら
夢通ひ吾が夜具直す亡き母の羽織姿に佇みにけり