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平成26年06月号
上石隆明 なにひとつきおくせぬゆめつづく日にかなしみ襲う頭痛はやさし
かなしみをひとつかかえてたつ門の杉のこずえに啼けりうぐいす
さびしさにかぎをかけやるくせありてななつの日よりつづく侘しさ
消したいとおもう気持ちとうらはらに復興つたえる記事が減りいく
蒼穹が震えて泣いて地震あり衝き放たれた我ら無気力
我ら造る土への傷はいつの日か消える日来るかかわらえよ地球
斉藤芳生 月は満ちぬ自転車漕げば両輪の巻きあげる白きはなびら無限
春山は雉の声のみ響かせて濡れおり鍬の刃もよくひかる
逃げるとは生きること温き泥の中おたまじゃくしはわらわら逃げる
避難先よりひといふたりと戻り来て子らは名前を書けり大きく
群生のカタクリは祈りのかたち山蔭に冬の除染の後に
ささやかに兆すひかりはキャベツ畠に中なる蝶の小さき卵
母親?
水野碧祥
三棹の箪笥運びぬわが部屋に断絶続く母は許さず
仏壇を運びくるなりマンションに断絶続く母の家から
真逆なる発想やめぬ母親と断絶続く如月はじめも
定年を迎へしわれに安らげと同居すなと友は語りぬ
鴇 悦子 今日母と話せて良かったと切れ切れに言いし吾娘逝き十年目の春
乳首含み「はじゅかしい」とて顔を伏す女孫一歳大人びてきたり
悪さして眼を見なさいと言われるとぎっちり眼瞑りないことをにする知恵
マントラに癒され眠りカーテンの隙間ゆ朝陽が私を起こす
連翹の蝶舞う姿木瓜の蕾狭庭彩る春雨の中
永訣X
中根次朗
枕辺の遺品メモ帳開き見し吾が胸塞ぐ母が筆跡
丑三つの亡母が寝言に吾は今此の岸ありや彼の岸ありや
とどめつる母が遺影の清しくて心のどかに未来を望む
遺されしものの心根知らずして垂乳根は吾を捨て給ひけり
北帰行支度漸(スス)むや白鳥の啼くこゑ昴し伴(ツ)れなむ吾も