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平成26年07月号 | |
上石隆明 |
憂い満つ疲れた体の五十三うからをひとり亡くしています チューリップ赤く一本花開く手入れされずも途絶えぬ命 透き通る耳持つ祖父が夢にいでノクターン我に弾いてくれたり 坂下り右へ行ければ正解と初めての街の我の楽しみ 背中たて威嚇せし猫20kg我と飼い犬後ずさりせり |
斉藤芳生 |
ぬかるみは深けれど春 大量のしろうさぎ二円切手に刷られて リュウグウノツカイ予告もなく来たる日本の浜は砂飛ぶばかり 長すぎる翅と足もつががんぼのかなしみは障子紙にぶつかる こん、という小さい音に燕死にきああ五月晴れ映す玻璃窓 燕あわれあたまの羽毛残したり窓開けて青きガラスを拭くう 映る空つくづく青し激突の直前までを燕飛びいし 大手鞠しろくおおきくふくらみてふりかえる雨の粒しろくする |
水野碧祥 |
姥捨てと思いもせぬが姥捨てに追い込む母を今日もみている 漱石のセピア色なる三部作六十年経る我のようなる 長閑なる日差しを浴びる亀二匹三四郎池に佇んでいる 「甲状腺手術したよ」と伝えくるハート印を手紙に書いて 震災ののちに届きぬメイルには「家流された」とハート印が |
鴇 悦子 |
水温めど流れを知らぬ幼子を阿武隈川は三人飲み込みぬ 花見時道路除染の塵芥埋めし公園人影を見ず 公園ゆ花もセシウムもひらひらと百メートルは飛び我が家にも散る 原発の避難者の大工土地買えど家建てられず一年が過ぎる たらの芽にコシアブラ来る弟ゆ線量気にする我に春の香 デコ屋敷午の張り子の顔見わけ福を呼ぶかと一つ購う |