年度目次へ
平成26年目次へ
表紙へ戻る
平成26年08月号
上石隆明 小舟よりひとりひとりが降りるごと家族は増えてまたも減りゆく
また今日も探し人のニュース出て探す手立てを隠す秘密保護法
わが姿見たれば駆け出す猫三匹狭庭に糞をたんまり残し
中年と壮年のあいだを行き来する歌会の後の飲み屋の話題
福島から来たから今日は泊めらぬ宿屋もありて今も悲しい
今もまだフクシマ受けいれ出来ぬまま何が変わった除染は続く
文知摺橋
斉藤芳生
雨窓冷ゆ うたくず棄つるわたくしと飛べぬ草蜉蝣と向き合う
紫陽花の色移るような恋いかとも草色の小さき蜘蛛も隠れて
橋ごとにちがう川風ちがう水文知摺橋に青草におう
文知摺石磨いて人を恋う苦しさに降りやまぬ樹雨は
巨き石巨き陰なす哀しみにほつほつとへびいちご実らす
芭蕉の脛、子規の耳朶 信夫文知摺しんしん冷えてほととぎす啼く
水野碧祥 DVD見る機器あらず被災地に米櫃の米微かに残る
のこぎりに傷つけられし未成年心的外傷知る由もなく
スタジオに電話入りぬ負傷者のマイク持つ手に力が入る
授業なくおさぼりさんの顔を見るコスプレ衣装に知性が走る
握手券DVDに封入の小票は活きる好きな少女と
鴇 悦子 夕顔の種ほど硬くて前向けぬ我を淋しむ我の苛立ち
雨音に沈む私をマントラが時間をかけて眠りに誘う
除染土を埋める公園にぼんやりの一つも無くて桜のトンネル
福島に生まれし悲しみ空気吸い土触れる時野菜買う時
娘の墓に曼珠沙華植え春は葉を秋には花を見られるように